その③
◇ ◇ ◇
「凄いな。麻酔薬って難しんだろ?」
いつもの夜のティータイム。エドがクッキーを齧りながら訊ねてきました。ちなみに今夜のお菓子はセント・ジョーズ・ワートに行っていたバートさんからの差し入れです。
「精密薬の中で難しい方だね。一発で成功するとは思ってなかったよ」
「おまえより腕が良いかもな」
「なによそれ」
いつものことだけどエドの売り言葉を買ってしまう私は「そんなことないもん!」と言い返します。
「経験値は私の方が上だからね!」
「わかってるよ。いちいち噛みつくなよ」
「嗾けておいてよく言うわね――って言うか!」
「なんだよ」
「最近、ルークとお散歩に行くかお昼寝するかのどっちかじゃない⁉」
「そーだな」
またそれかと言わんばかりに適当な相槌しか打たないエド。それでも私が言いたいことはちゃんと分かってるみたい。明日はちゃんと店番すると約束してくれました。
「明日はソフィーが一緒に散歩行けよ。ったく、ルークと遊びたいならそう言えよ」
「そうだけどこの村の薬師は私しかいないでしょ」
「サラもいるから大丈夫だろ」
「まだ新米薬師だよ」
「おまえがそれ言うか?」
「言えないね」
「ま、薬師が二人いるっていうのは安心だよな」
「なに村長みたいなこと言ってるのよ」
「村長、俺なんだけど」
たまにやってしまうこのやり取り。エドが村長になったのは私と結婚してしばらくしてのこと。彼のお爺さんである前村長さんが体調を崩してすぐでした。
「もう2年だっけ」
「そうだな。おまえと結婚した時もだけど、ルークが生まれた時はすごく喜んでたよな」
「そうだね。初孫ってそういうものなんじゃないかな」
「かもな。けど、もう一人くらい見せたかったな」
「え、ちょっと急になに言うのよ⁉」
夫の思わぬ発言に顔が熱くなるのが分かります。けれど、そんなつもりで言った訳ではないらしく、すぐに「ちげぇよ」と反論してきました。
「爺ちゃんがさ、死ぬ前に『女の子も見たかった』って言ってたんだ」
「そうなの?」
「おまえのことを孫娘みたいに思ってたからな。生まれたらおまえに似た可愛い娘なんだろうなって」
「そ、そっか」
師匠の思い付きでやって来た私をそんな風に思ってくれていたんだ。私って本当に幸せ者なんだ。
「どうした?」
「ううん。なんでもない」
「そろそろ寝るか?」
「そうだね。ねぇ、エド?」
「なんだよ」
「今度“仲良く”しよっか?」
「ちょっ、なに言ってんだよ」
「エドが言ってきたんだよ?」
「だからそういう意味じゃねぇって」
なんでそこまで否定するかな。夫婦なんだし当然のことだと思うんだけどなぁ。
「コウノトリがどうとか言ってたやつがよく言うよな」
「いい加減忘れてくれないかなっ」
「はいはい。ソフィー?」
「なによ」
「今度時間作ろうな」
「……もう。仕方ないなぁ」
自分から言い出したことなのにエドの誘いで簡単に機嫌が直ってしまうあたり、喧嘩することもあるけどやっぱり私は彼のことが好きみたいです。
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