その②

             ◇ ◇ ◇


 久しぶりに焼いたホットケーキはエドたちにも好評でした。私の分まで食べたルークはそのままお昼寝。エドも一緒に寝てしまい、サラちゃんと二人になった私は先輩らしく彼女に調薬の手解きをすることにしました。

「ソフィーさん、そろそろ大丈夫ですか」

「うん。火を止めたら煮出し袋を取り出して冷ますよ」

「はいっ」

「冷ましたら一単位ずつ薬瓶に移してコルク栓で封をしたら完成。3本はハンスさんの診療所用。残りはウチのストックね」

「わかりました」

 空の薬瓶を棚から取り出しながら返事をするサラちゃんは何処か達成感に満ちているようです。私が監督していたとはいえ、ただでさえ難しいとされる麻酔薬を一発で作るなんて驚きです。

「麻酔薬って座学でレシピだけ習いましたけど、実際に作るとけっこう難しいですね」

「精密薬だからね。材料を1グラム単位で量って作るし、煮出し加減も間違えると使い物にならなくなるし、神経使うよね」

 風邪薬や痛み止めのような一般薬とは違い、レシピを忠実に守ることが基本の精密薬は薬師でも苦手という人が案外います。

「解毒薬とかはともかく、私たちが麻酔薬を使うことは少ないからね。学校で実習しないのもわかる気がするな」

「い、いえ。そうじゃないんです」

「どういうこと?」

「わたし、学校では一般薬専攻だったんです」

「専攻とかあるの⁉」

「はい。2年生から一般薬専攻と総合薬学専攻に分かれるんです。一般薬専攻は座学でしか精密薬を教わらないんです」

「そ、そうなんだ……」

「総合薬学は成績上位者しか専攻出来ないんです。わたしはそこまで頭良くなかったから……」

「そっか」

 養成学校ってそんなシステムになってるんだ。もしかして師匠が私を学校に通わせずに独学させたのって――

「ソフィーさん?」

「あ、ごめんね。でも一発で麻酔薬を作れるのは薬師の素質があるって証拠だよ」

「ほんとですか⁉」

「うん。一般薬は大丈夫みたいだし、精密薬の調薬方法を重点的に勉強しようか」

 ハンスさんのところと取引しているお陰で精密薬も一通りは作れるし、比較的よく出る薬ならオリジナルレシピも持っています。精密薬が苦手らしいサラちゃんにとってウチは修行するに適した環境なのかもしれません。リリアさんはこのことを知った上で私にこの子を任せたのかな。

「ソフィーさん」

「なに?」

「改めてですけど、これからよろしくお願いします!」

「うんっ。よろしくね。サラちゃん」

 新米師匠と新米薬師――新米同士、私たちは良いコンビになりそうです。

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