第49話 半神半人のデウスマキナ
――神代のデウスマキナ。
現在流通しているデウスマキナとは異なり、神の手によって創造されたと言われる超常の機神だ。
それは機械でありながら天候すらも操り、ときには生命すらも生み出したという……
そんな神に等しき力を持つ神代のデウスマキナであれば、物理法則を無視することなど容易いだろう。
実際、俺の搭乗する【パンドラ】も神代のデウスマキナなのだが、一度解体されその構成パーツの大半を失ってなお、現代の技術でも再現不能な機能を複数有している。
しかし――
『あり得ません』
『それは、パンドラが認識できないから――ってことかしら?』
『そうです。そしてもう一つ根拠を提示するのであれば、
確かに、それは少し引っかかる要素である。
神代のデウスマキナは基本的に人を模して造られており、それ以外の形状をしたものは今のところ発見されていない。
古い文献やパンドラの記録などから、かつては超巨大なデウスマキナや翼を持つデウスマキナが存在していたこともわかっているが、それもベースはあくまでも人間だったとされている。
『そうね。そこはアタシもおかしいと思ってる。……でも、完全にあり得ない話ってこともないわ』
『……興味深い話です』
通常のAIであれば、データにない情報はただ否定するのみである。
しかし、パンドラの場合は本当に人間のように思考することが可能なため、データにない情報は積極的に収集しようとする。
これもまた、神代のデウスマキナの凄さの一つと言えるかもしれない。
『現在確認されているデウスマキナは、主に三種類あるわ。一つは神代のデウスマキナ、オリジナルと呼ばれているデウスマキナね。そしてもう一つが【ヘラクレス】や【アトラス】といった、神代のデウスマキナを鹵獲して人間の技術が加え得られている
『シャルロットに提供いただいた情報が正しいのであれば、現在一般に流通しているデウスマキナのほとんどが【ヘラクレス】や【アトラス】をベースに作られているから――でしょうか』
パンドラは帝国時代、あまり現代の知識を得ることができなかった。
理由はネットワークの閲覧履歴などが監視されていたからで、迂闊な情報収集ができなかったためである。
テレビを見る程度のことはできたが、帝国で放映されているニュースなどでは情報に偏りがあり、大した知識も得られなかった。
それが亡命したことで制限が取っ払われたことにより、今では立派なネット廃人と化してしまっている。
ただ、デウスマキナに関する情報については国家機密に類するものも数多くあり、ネットだけで全ての情報を集めることは不可能だ。
パンドラもそれには不満を抱えていたのだが、偶然とはいえ俺の相棒となったシャルには、貴族という立場と研究家であるという両面からデウスマキナの情報に精通していた。
結果、パンドラとシャルは利害の一致から、日々情報のやり取りや考察をする趣味仲間のような関係となっている。
『そう、完全な神造のデウスマキナは未だに人間の技術では再現不可能だけど、人の手の加わった【ヘラクレス】や【アトラス】ならギリギリ模倣することが可能だった。それが現在一般にも流通している三種類目――、人造のデウスマキナ。……でも、これって少し変だと思わない?』
「……俺から少しいいか?」
『もちろんよ。談義は本来なら三人以上でするのが望ましいもの』
まあ確かに、俺も会議等で経験したことがあるが、意見が衝突してヒートアップした際に冷静に場を収める第三者の存在は非常に重要だった。
俺にそれが務まるとは思わないが、素人の視点がときに役立つこともあるだろう。
「グリズリー会長も言っていたが、これまでにも少数ながら攻略された未踏領域はあるんだろう? それにしては、発見報告されている神代のデウスマキナがあまりにも少ない――そんな疑問が前々からあった」
一般的に出回っている歴史書や資料に発見情報が記載されている神代の(と公表されている)デウスマキナは、俺が知る限りだとヘラクレス、アトラス、アキレウス、ペルセウスといった鹵獲され半神半人として再構築された量産機と、存在が確認されていない神話上の存在である大型デウスマキナ――【ティフォン】が生み出したとされる【オルトロス】、【ラードーン】といった
ちなみに俺達がサンドストームマウンテンで破壊した【カイキアス】も同じ眷属機だが、まだ一般には公開されていない。
恐らくは開拓者ギルドや国家が未踏領域の発生原因を隠匿しているせいではあるのだが、それは同時に発見された神代のデウスマキナの存在も隠しているということだ。
『その疑問はもっともね。あくまでも記録上だけど、これまでに解放――つまり災いが終息したと思われる未踏領域は『サンドストームマウンテン』を含めて13ある。つまり最低でも13機のデウスマキナが見つかるハズだけど、私の知る限りでは【アテ】を含めても
「……見つかっていないなんてことがあるのか?」
『そりゃあるわよ。世間的に見たら、コンラート――マリウスのお父様が回収した【アテ】だって未発見扱いでしょ?』
「確かに、それもそうか」
親父達によって解放された未踏領域『カプリッツィオ』。
そこで発生していた人と機械を狂わせる災いは、一般的には自然消滅したことになっている。
実際は発生源であった神代のデウスマキナ【アテ】が破壊されたことが原因なのだが、【アテ】は親父が回収したため恐らく誰にも認知されていない状態だ。
パンドラによれば、回収は『キビシス』により行われたため痕跡すら残していないらしい。
ただ、今現在の【パンドラ】を構成している基本パーツはほとんど【アテ】のモノを流用しているらしいので、もし記録がどこかに残っていればバレる可能性はある。
そのため整備は今まで全て自分で行っていたのだが、最近はシャルの所有する整備工場に任せてしまっていた。
シャルはシャルで何か隠し事をしているようなので、「もし情報が洩れるようなことがあれば共倒れになるから安心しなさい!」と謎の説得をされたのだが、そんなことがなくともシャルのことは信用しているのであまり気にはしていない。
仮に洩れたとしてもそれはシャルの意思とは関係ないことだろうし、ただ仕方ないと諦めるだけの話である。
『まあ、それでも神代のデウスマキナが勝手に動いてるとは思わないし、動かせるとも思わない。仮に動かせたとしても、それならそれでパンドラが感知できるハズ――』
『つまりシャルロットは、【アテ】と同じように秘密裏に回収された神代のデウスマキナがあり、先程のアレはその神代のデウスマキナをベースに人造された、半神半人のデウスマキナの可能性があると言いたいのですね?』
『そういうこと』
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