第2話 実験
俺は再び右手に持っている脇差「シヴァ」を何度か振り回してみた。刀身から放出される氷属性の斬撃によってあたり一面が凍り付いて行った。
わずか十回程度シヴァを振っただけで俺の周りの荒野は全て氷で埋め尽くされていた。まるでここだけ南極になったみたいだ。
「おおー、本当にすごいな!」
シヴァの威力に改めて驚いてしまう。
たぶん、こんなことは町で入手できる武器なら普通にできるんだろうけど。俺にとっては子供の頃の憧れだった。もう少しだけ遊んでいこう。
俺はじいちゃんが作ってくれた刀の変化が嬉しくて子供みたいに夢中になってしまう。
「よし! じゃあ今度は……」
俺は目を閉じ、頭の中で地面から巨大なつららが突き出るイメージを思い描いた。そして目を開けると、今のイメージを崩さないままシヴァを振ってみた。
すると、
「パキンッ」
という音と共に、頭の中でイメージした通りのつららが地面から突き出た。高さは三メートル、太さは五十センチメートルを超えている。
それを見て、俺は自分の予想が正しかったことがわかった。
「じいちゃんの刀は、俺が昔想像して遊んでいたのと同じように能力を発動させることができる! すげえ!」
今使った地面から巨大なつららを突き出した技は「牙氷」という技だった。子供の頃に漢字辞典を使って一生懸命強そうな漢字を探してつけた技名だった。
「じゃあこれはいけるか?」
俺は次に、あるイメージを浮かべてから左手に握っていた短刀のアグニを思い切り前に突き出した。すると刀身の先から放たれた炎は次第に龍の形に変わっていく。頭から尻尾まで十メートル以上の長さはあるように見える。
アグニから放たれた龍は俺が頭の中でイメージした通りの軌道を通って飛び回った。そしてしばらくすれと地面に頭から突き刺さり、巨大な爆炎をあげた。
その炎は爆心地から半径三十メートルほどの距離まで広がっているように見えた。先ほどシヴァの攻撃で凍っていた荒野の氷は跡形もなく溶けていった。
その威力は圧倒的で、アグニを握っている自分まで焼けてしまうのではないかと思うほどの熱であった。この技は「炎龍」という技名だった。
「すごい! やっぱり昔考えた技がそのまま使えるんだ!! やばっ!」
異世界での愛刀の進化に俺はテンションが上がってしまい、自然と笑顔になる。こんなにワクワクしたのはいつぶりだろう。ここ数年感じていた陰鬱な感情が嘘みたいに今は感じられない。子供の頃に感じていた幸せな気持ちが込み上げてくる。
「よし! じゃあ次はあの技をやろうかな!」
そんな事を言いながら俺は右手に持っていたシヴァに目を移した。すると、シヴァの刀身のいちばん下、鍔の少し上のあたりに青い光でぼんやりと数字が浮かんでいることに気付いた。
よく見るとそこには数字で9938と浮かんでいる。
「ん? なんだこの数字? 」
俺はしばらく数字の意味を考えたがわからなかった。
「あっ? もしかして!」
数分考えた後に俺はある可能性が思い浮かんだ。俺はそれを確かめるため、シヴァを一度だけ振ってみる。すると、刀身から放出された氷の斬撃は真っ直ぐに地面を凍らせていった。
俺はすぐにシヴァの刀身を見た。するとそこには9937と表示されていた。それを見て、俺は納得する。おそらくこのカウンターは特殊な技が使える回数を示したカウンターだ。シヴァがあと何回氷属性の攻撃を使えるか示しているのだろう。
「じゃあこれならどうだ?」
俺はシヴァから先ほども使った「牙氷」を放った。すると数メートル先に巨大なつららが現れた。
俺はすぐにカウンターを見る。そこには9887と表示されていた。これで完全にこの数字の意味がわかった。やっぱりこれはカウンターだ。
そして今の実験で技によってカウンターの減りが違うことがわかった。普通に振って直線上を凍らせるだけなら1しか減らないけど「牙氷」みたいな威力の高い技を使うと多く減るんだ。
「まずいな……。さっき「炎龍」使っちゃったよ!」
アグニを使った技の中ではかなりの大技である炎龍を使ったことを思い出した俺は慌ててアグニの等身を見る。
するとそこには9491と表示されていた。
「はぁ」
悪い予感が当たってしまいふとため息が漏れる。今の技は半径三十メートル以内を焼き尽くす技だったが、カウンターの数字を五百も消費してしまった。
(このカウンターがゼロになったら特殊な技は使えなくなるんだろう。やばいな……)
俺は調子に乗って意味もなく技を発動してしてしまったことを後悔した。
しかし、すぐにこの三本の刀はおもちゃでしかないことを思い出し、
(町に行ったらすぐ新しいのを買えばいいや。どうせ他の人はもっと良い武器を使っているはずだからな)
と考え、後悔の気持ちは薄らいでいった。じいちゃんの刀はあくまでもお守りだ。もしカウンターがゼロになったときに壊れてしまうとかだったら悔やんでも悔やみきれない。
「やばい。そろそろ街を探さなくちゃな」
召喚された場所にしばらく留まっていた俺だったが、日が傾きかけていることに気が付き、慌てて移動しようとした。あたりは随分薄暗くなってきていた。
しかし、辺りを見回しても一面の荒野が続いているだけだった。当然どちらに町があるかもわからない。俺はしばらく途方にくれた。こうしてる間にも日はどんどん沈んでいく、心なしか気温が下がってきているようにも感じる。
まずいなと思いながら頭を抱えているとしばらくしていいアイディアが浮かんだ。
俺はシヴァを掴むとあるイメージを浮かべてから刀を振った。
シヴァから放出された冷気はみるみるうちに固まっていき、数分のうちに空に続く氷の階段が現れた。百段くらいしかイメージしてないから高さは約二十五メートルぐらいしかおそらくないが、これ以上は流石に上がるのが怖かった。
シヴァを見るとカウンターは百減って9787になっていた。
「キュ、キュ」
俺はゆっくりと氷の階段を上がっていく。高いところは別に苦手ではなかったが流石に十メートルを超えると怖くなってきた。手すりもつければ良かったと登り始めてから後悔した。
しかも履いているのは古いサンダル。氷の上を歩くには心許なかった。
「ふう」
五分ほどの時間が立って俺はようやく階段の上段にたどり着いた。地上から離れているだけあり、かなりの寒さだった。
いちばん先の段は切れているため、二つ下の段に立ち辺りを見まわす。
すると階段の正面の方向に、灯りが集まっているのが見えた。ただ、光が小さいため距離はかなりあるようだ。日はもうかなり暗くなってきている。
俺はゆっくりと階段を降りると、町の方角へ向かって歩き出した。
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