あと一年は

@sharles1010

あと一年は

私には先輩がいた。

ショートカットで、スカートとリボンの似合う、仲の良い先輩が。

スマホなんてない時代。お互い進路も違う。いくら仲がよくても私たちは先輩と後輩、だから卒業したら疎遠になる定め。

そんなの嫌だったけど、「これで良いんだよね」と少し思っていた。

中学校の先輩と後輩はこう言う物なんだって。

卒業式の日、三年以外の学年は休みだったから学校では会えなかった。

でも私は前もって先輩に卒業式の後学校の近くの公園で会いたいと伝えていた。

さようならを言うために。

私はブランコをこいで色んなことを考えた。

私も来年卒業するんだな、結局先輩の進路も聞けなかったなって。

やろうと思えばそれからも関係は続けられたと思う。でもしようとは思わなかった。

私の中の先輩は知り合いじゃなくて、いつまでも制服を着た学年の違う人であって欲しかったから。

先輩じゃなくなったあの人はもしかしたら私の知るあの人じゃないかも知れないから。

先輩は卒業式が終わった後私の元に来た。

その胸には卒業する時につける造花が付いていた。

それを見て本当に卒業しちゃうんだと思ったら先輩にもう人生で二度と会えないような気がして、まっすぐ先輩の顔を見ることが出来なかった。 

先輩を見るとさらにその悲しい気持ちが強くなるから。

私は勇気を出して先輩の右手を取って、両手でしっかり握りしめた。

離れたくないなんて言えなかった。

ただの後輩が後輩以上の関係を求めて気味悪がられたくないから。

最後の最後でこれまでの思い出を壊したくなかったから。

でも素直にさようならとも言えなかった。

そんなの悲しすぎるから。

変だよね、それを言うために来たのにね。

突然のことで先輩は驚いていたけど、すぐにもう片方の手で私の頭を撫でて微笑んでくれた。

「あの、制服の、そのリボンが欲しいんです」と頼んだ

本当は第二ボタンを貰うべきだと思うけど、それはお別れの儀式だから、そんなのは嫌だ。

先輩はこころよくリボンを外して私に差し出した。

私はそれを受け取って、自分の制服につけた。

先輩は嬉しそうに見ていた



「じゃあ、さようなら」と言い先輩は背を向けた、これでもう会えないんだと思った。

私の目に映る最後の先輩の思い出が、私から離れていく姿だなんて嫌だった。

衝動的に私は呼び止めた。

悲しい別れを少しでも先延ばししたいから。

「まって!」

好きな人は振り返った

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