第25話 魔導鎧(アーマードマシーン)
「喰らえバケモノめぇぇえがぁぁーーーーっ!」
デンガルが乗り込んだ
リーリエへと向かう光線。光が溢れ、広い中庭を明るく照らす。デンガルの視界もまた、白く染まっていった。
「死ぃねええぇぇぇえぇぇえぇえーーーーッ!」
真っ白で何も見えない中で、デンガルは叫ぶ。
目の前に現れた異様への恐怖が彼をそうさせた。
なんだ、なんなのだ、あの姿は。
身体の中から武器が出てくる、確かにそうは聞いていた。だがあれは、話と違う。出てきた武器と身体が融合しておるではないか。
自分が求めようとしていた物は、とんでもないバケモノだったのではないか。
背筋に走っていく冷たいものを振り払う為に、デンガルは叫び続ける。
「死ねッ! 死ねッ! 死ねッ! 消え失せろ、私の前から去れッ! うがあぁああッ!」
トリガーを連続で引きまくった。
食いちぎられた人差し指の代わりに、中指を使って引きまくる。
「どうだッッッ!」
叫んだ瞬間に、だが違和感。
土煙の中に、隠れようもなく輝いている『光の球』が浮いている。
なんじゃ!? とデンガルは眉をひそめた。
もうもう、もうもう、と。
広がっていた土煙が次第に収まるにつれて、その光の球の正体が明らかになる。
「どウということモ、ありませン」
呟き声が聞こえた。
土煙が晴れた中に、リーリエが立っている。
彼女が前に突き出した右手の先に、光の球が渦巻いていた。
それは魔導砲から射出された光線が、球状に集められたものだった。
球状の力場の中では、捻じ曲げられた幾本もの光線がグルグルと『前進』し続けている。
デンガルには、もちろんそんなことは理解できなかった。
彼が理解したことは。
「ひっ!?」
なにかわからないが、とんでもないことをされたということ。
「しんでくだ、サイ」
「いやじゃあぁぁあっ!」
咄嗟に
リーリエが投げつけた『光の球』が、
轟音が響く。
一撃で
「ひあっ! ひあっ!」
地面に転がったデンガルは、抜けかけた腰に力を込めて這いつくばった。
リーリエから少しでも離れようとして、逃げようとして、手足を動かす。
燃え上がる
「はひっ、はひっ」
「しんでく、ださイ」
リーリエが左腕を突き出す。
そこに析出していた細い銃身から、レーザーが迸った。
チュイン! しかしその光線は外れる。
照準が全く合っていない。デンガルの身体ではなく地面を削るだけだ。
「ひゃあああああーーーーっ!」
飛び上がるデンガル。
抜けてた腰が一気に戻り、凄い勢いで走り出した。また屋敷の中へと入っていく。
それを表情薄くリーリエの目が追う。
彼女はデンガルが逃げた先をしばし眺めると、少し不思議そうな顔で自分の左腕から飛び出た銃身を見た。
銃身は、明後日の方向にひん曲がっていた。
これがデンガルを外した理由なのだろう。
それを理解しているのか、してないのか。リーリエは銃身をさっさっ、と軽く払い、フラフラとした歩みでデンガルを追い始めたのだった。
「い、いったいなにが起こっているのですかデンガルさま!?」
執事らしき老齢の男が、屋敷の中を走っていたデンガルに言葉を掛ける。
きゃあきゃあ、わあわあ、と。屋敷の中はちょっとした騒動になっていた。メイドを始めとした使用人たちが、逃げ惑っている。
「そ、その手はどうなさったのです! おい誰か、デンガルさまの治療を!」
「よ、よい! そんなこと今はどうでもよい!」
「は?」
執事らしき老齢の男は戸惑った。
そんなこと、と言ってしまってよい傷ではなさそうなのだが。
だがデンガルは、そんな老齢の男に目もくれずに言う。
「お、女を止めろ!」
「はっ?」
「これからここを通ろうとする女を止めるのだ、わかったな!」
「は、はぁ……」
女? ――なんのことだろう。いや。
そういえばデンガルさまは、子飼いの者たちに女性を攫わせてきたようだった。その女性のことを言っているのだろうか。
廊下を奥に走り去っていくデンガルの後ろ姿を眺めながら、老齢の男は首を眉をひそめた。なにが起こっているのか要領を得ない。そこを聞きたかったのだが、デンガルは急いで走り去ってしまったのだ。
どうしたものか、としばらくその場で立っていると、廊下の向こうから何かがフラフラとした足取りで歩いてきた。
その何かとは、金属質の翼のようなものを背に生やした異質の者。
両腕からは武器のような物まで生えている。
尖った耳に長い金髪。見開かれた目には表情こそ薄いが、美人の――女性だ。
デンガルさまが仰ったのは、この女性のことだろうか。老齢の男は、その女性に話しかけた。
「お、お待ちくださいお嬢さん。どちらへお向かいなのでしょう」
女性が立ち止まった。
声を掛けられたことがまるで不思議だったかのように、小首を傾げて老齢の男の方を見つめる彼女。
「どち、ラ、?」
「はい。どちらへ」
女性はゆっくりと首を上げると、しばし天井を見て。
「わかりマ、せん」
「それは……お困りでしょう。このお屋敷は広くて複雑です、よろしければわたくしが一緒にお付き合い致しましょうか?」
「おかマイ、なク」
「ですが」
「オかまい、ナク」
そう繰り返すと、女性はぺこり、と頭を下げた。
「ソレ、よりモ。ご避難ヲ。ここに、イルと、命の保証がデキませン」
「え?」
「他の方を、お連れシて、皆でご避難を。私はソれを、望み、まス」
「それはなんというか……はい。ご丁寧に恐れ入ります」
「よろし、く、おネがい、シマす」
そしてまたフラフラと歩き始める女性。
女性はデンガルの後を追うように去っていった。
老齢の男は理解した。
デンガルさまは、超えてはいけない一歩を超えて、なにか剣呑なモノに触れてしまったのだ。もう、わたくしにして差し上げられることはない。
となれば、いま自分がやらなければならないことは、一つ。
「皆! お屋敷からの退避を! 慌てずゆっくり、正面から外に出なさい!」
老齢の男は、使用人たちの身の安全を第一に切り替えたのだった。
◇◆◇◆
どうしてこうなった!?
慌ててて足を挫いた。
デンガルは屋敷の中で座り込み、ぜぇはぁと激しく息をしながら自問した。
コヴェルとか言うS級冒険者にしてやられた腹いせに、ちょっと小娘を攫っただけのつもりだった。
もちろん異質な能力を持つ娘という話は聞いていたので、そちらへの期待もなかったわけじゃない。だが一番の理由は、あのS級冒険者にひと泡吹かせてやるためだったはず。
ただそれだけのはずだったのに、どうしてこんなことに。
「だいたい、私は小娘の父親のことなど知らぬぞ! 村を襲う際に影の者たちが殺したというなら、私ではなくあちらを責めるのが筋であろうに! そうだ、なぜ私が追われねばならん!?」
だんだん腹が立ってきた。
そうだ、なぜ私がこんな逃げ回らねばならないのだ。
私はいつのときも、奪う側であったはず。
ゴーレムを駆り、幾つもの戦場を渡り歩いた若き日。
戦場を去ったあとは奸計を使いこの街での大きな立ち位置を作った。
常に奪う側だったはずなのだ。
反撃に転じるべきだ。
あの『試作品』を動かすことに躊躇う必要もない。私はゴーレムに関しては一家言ある。きっと成功するだろう。いまこそ起動させるべき、それでこその私だ。
デンガルは両こぶしを力強く握って肩を揺すった。
そうだ反撃だ!
「……見つケ、た」
「ひぃっ!?」
デンガルの気持ちが一気に萎えてゆく。
一瞬前までの高揚感をリーリエの声が吹き飛ばした。
ペタン、ペタン。
廊下の中に、生足の音を響かせながら、ゆっくりとリーリエがデンガルに近づいてきた。
「やめ……、やめてくれ」
「死んで、くだ、サイ」
「私が直接おまえの父を殺したわけじゃない」
「そうデス……ネ、でも、殺さない、ト」
抑揚のない声に、抑揚のない声でリーリエは繋げる。
『目標の抹殺が、現在のシステムエラーを修復する為の近道と計算します。私たちと、タイプ:リーリエの利害は一時的に一致しました』
「この……バケモノが」
「シネ」
リーリエが、右肘から伸びたブレードをデンガルに刺そうと、肘を振り下ろした。そこに。
――ガキュィン!!
突然剣が割り込んできて、リーリエの肘ブレードを身体ごとを弾く。
「間に合った……!」
どれだけ急いでたのか。
必死の表情のままに、肩で息をしているリーリエの現雇い主。
コヴェル・アイジークが、リーリエとデンガルの間に割って入ってきたのだった。
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