第19話 医薬区へ
おやっさんが寝室へ退散するのを見送った後、俺はミィナに連れられて町に出ることにした。
ぶっちゃけおやっさんの服を借りようか、すっごい悩んだ。
悩んだが…やめておいた。
理由は簡単だ。
借りるためには、現状この革の外套を脱いだら全裸であることがばれてしまうからだ。
それはすごい嫌だ。
主にミィナにバレたくない。
そんな微妙な男心が、今は語らずを選択したわけだ。
うん…後悔はしていない。…多分。
街中は、朝より少し人が増えていた。
時間的にはイメージとして九時とかその辺だろうか。
往来を行き交う人々は様々だ。
農具を持って歩く者は、これから郊外の農場地帯へ向かうのだろう。
籠を持って歩く者は、籠に何か入れていることが多い。売り物だろうか。
場所によっても人々は違う。
鍛冶場が多い区画は、ガタイの良い男性が多い。店としても鉄や銅を使った道具を売ってる店ばかりで、なるほど鍛冶師は男性ばかりという事か。
飲食店が多い区画は、とにかく良い匂いがする。まぁ当然か。そして、店頭に立っているのはかなり女性が多い。実際に料理を作っているのが男性か女性かは不明だが。
野菜や肉などの素材を売っている店舗が多い区画は、飲食店区画の横にあり、まぁそうだよなと感じる。朝採れたての野菜が多く、肉系はあまり売っていないイメージだ。朝に肉を食べる人、少ないのかな?
ミィナはそれぞれの区画や店について、俺に説明しながら先を歩いている。
それほど大きな町ではないので、三十分も経たずに回りきってしまった。
いや、マジで狭いな…
「この町はそれほど大きくありませんから、こんな感じですぐに一周できてしまいます。ですが、それはあくまでも居住区画の話でして…」
「ああ、なるほど」
恐らくは農場だ。その区画がかなり広いとか、そんな感じか。
「なんとなく察しておられるかもしれませんが、この村のほとんどは居住区画の外側を覆う農場や放牧場でして」
やっぱりだ。
「そこは…見て回らなくても良いです…よね?」
俺はちょっと笑いながら頷いた。
だって、ミィナの顔が全力で行きたくないって言ってたからだ。
「良かった! 私、外側の区画って苦手なんです…」
まぁ何が理由かは聞かないでおこうか。
「さてと…それじゃあ、行きましょうか。医薬区へ」
◆ ◆ ◆
医薬区。
そこはまさに医療と薬の区画だ。
商人の霊が言っていた商店街というのは、無かった。どうやら彼の知識はかなり古いのかもしれない。いや、でもこの革の外套を見るに、そこまで昔という事は無いと思うし…謎だ。
商店街ではないが、この区画には治療院と薬屋がある。というか、それしかない。これを商店街とは言わないと思うが、もしかしたら違う店舗と間違えていたのか?
まぁ今は置いておこう。
薬屋ではあらゆる薬草から薬の調合が行われている。が、言っても小さな村だ。それほど大きな薬屋は無い。この区画にあるのは五店舗のみで、そのうちのひとつが俺が行こうとしている薬屋アデルだ。
「はい。ここがアデルですよ」
ミィナが薬屋の前についてから、看板を指さした。
うん。読めない。
まぁ薬屋アデル、と書かれているのかな?
アデルはこの五店舗の中では下から二番目の大きさで、それほど綺麗なたたずまいではないので多分儲かっていない。
ちなみに治療院は一カ所しかなく、その治療院を取り囲むように薬屋が五店舗ある感じだ。
「おはようございますぅ。アデルさん、居ますかぁ?」
ミィナの間延びしたような、ちょっと鼻にかかったよそ行きの声が響く。
が、中から反応は無い。
「いらっしゃらないみたいですね…」
こちらの見たミィナの顔は、どうしますか? と俺に問いかけていた。
むぅ。どうしたものか。
このまま待つのはなぁ…
俺は手に持った洗面器の上に乗っている薬草を見た。
明らかにしおれてきている。
それはそうだ。丸一日は経っている。
「出直しますか?」
俺は少し悩んだ末、小さく頷いて返したのだった。
◆ ◆ ◆
俺たちは帰りに市場によって、昼用のパンなどを購入してから帰宅した。
まぁ帰宅と言っても俺の家ではないので、言葉としてどうなのかとか一瞬考えてしまったが…まぁミィナが帰宅したんだから良いか。
おやっさんはまだ寝ているらしく、たまにイビキが聞こえてくる。
豪快に寝てるなぁ。
「兄さんは多分、お昼を過ぎてしばらくしないと起きてこないと思います」
なるほど。ならとりあえずはお昼の用意は二人分だけかな?
「私はお昼の用意を始めますが、あなたはどうしますか?」
そう言われても困るのだが、さてどうしようか。
そうだ。見ておいた方が良いものがあるな。
俺は家の外を指さしてから、歩いてから立ち止まって何かを手に取って眺めているようなジェスチャーをした。
「何か気になるものが有ったんですね。分かりました、では…お昼は用意しておきますので、適当に戻ってきてくださいね」
「分かった」
俺はそう言って、ミィナに頷いて返したのだった。
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