第11話 ゴロゴロゴロ
寝汗はそれほどだったんだが、さっきの間一髪があったせいで嫌な汗が全身から出ていた。これをどうにかしたいのだが、近くに流れる川は高山の雪解け水だ。
恐ろしいくらいに冷たいから、それで汗を流すとかは軽く言えるものじゃない。
正直…やりたくない。
でも、このままでは風邪をひいてしまいかねない。
そのとき、ふと思い出した。
動物が濡れた身体を乾燥させるのに、砂浴びをすることがあるということ。
いや、これって身体についたノミとかを駆除する行動だったっけ?
まぁ良いや…とりあえず、砂浴びをすると全身が乾燥するのは確かなのだ。
砂まみれにはなるんだけども、その後に手で砂を払えば、なんとかなる…気がする。なにしろ俺は今、全裸なのだ。ある意味動物たちと同じと言える。
なので、俺にとっても砂浴びは一定の効果があると思う。
「この辺に、砂浴びが出来る場所ってありませんかね?」
俺の一言に、師匠(カブトムシ)と、商人(ゴースト)はキョトンとした目で俺を見つめてきた。その目には、意味が分からない、と言う言葉が見て取れた。
「い、いや、身体がこう、汗で濡れてるからさ。なんとかして乾かしたくて」
『砂浴びで…身体を乾かす? なるほ…ど?』
【面白いことをおっしゃいますねぇ。まぁ確かに、動物が砂浴びをする姿は見たことがありますけれども…】
「今の俺にとっちゃ、体温が奪われる方がヤバいからさ」
『あぁなるほど。確かにヒトは普段 フク を着てるもんな。ちょっとでも体温を保つのに必要だって言うなら、砂浴びできるところまで連れて行ってやるよ』
「師匠! 助かります!」
『分かった分かった。耳元で大声出さなくても良いから』
「あ、すんません。とにかくありがとうございます」
『おう。良いって事よ』
「ところで師匠…こいつ…グーロはまだ寝てるみたいですけど、ここに置いていくんですか?」
【あぁ、それなら気にされなくても良いですよ】
「そうなんですか?」
【はい。こんな格言があります。《寝ているグーロを起こす》というものですが、これも覚えておいて損はないですよ?】
「寝ているグーロを起こす…どんな意味なんです?」
【愚かな行為、という意味ですよ】
「あぁ…」
一瞬で察した。
◆ ◆ ◆
砂場は思っていたより近くで、商人夫婦の遺体があった場所から少し奥へ行った場所だった。
まぁ砂場と言うよりは、単なる広場と言う感じではあった。
が、それでも充分だった。
乾いた砂地の地面があれば問題ない。
俺はその場に寝ころび…ゴロゴロと転がり始めた。
あぁ…砂で全身がサラサラになっていく…
全裸で地面をゴロゴロ転がる男。
それを見ているカブトムシと幽霊。
ゴロゴロゴロ…
おい、この光景、大丈夫か? 放送コード大丈夫か?
いや全裸の時点でそれはギリアウトか。
いやそう言う事じゃなくてだ。
この絵面、大丈夫か?
アニメにもドラマにも向かないワンシーンなんだが?
俺はそんなことを思いながら、虚無の表情で転がり続けた。
ゴロゴロと
砂場転がる
ヒトヒトリ
それを眺める
虫と幽霊
◆ ◆ ◆
商人(の霊)から譲り受けた革の外套と革靴。
一日経ち、午前中の日の光を浴びたおかげか、ほぼ乾いていた。
俺はそれを身に着けてみる。
外套は普通にサイズ的な問題はない。
靴の方も思ってたより少し大きめだったが、問題なく履けるサイズだった。これなら一応問題なく使えそうだ。
全身を覆う着る物と、足を保護する靴が手に入った。
これならパっと見は普通に見えるな、うん。
次は…道具類か。
俺はとりあえず、必要なものとして次の二つを師匠に伝えた。
ひとつはナイフ。これがあればいろんなことが出来るようになる。
もうひとつは釣り糸と針。これがあれば魚を釣ってタンパク質を摂ることが出来るようになる。
『ナイフと釣り糸と針、か』
【外套でしっかり隠せば、街中に入ることも可能だと思います。ですが…問題はそれらの道具を手に入れるためには…】
「お金、ですよね…」
【はい。その通りです】
「やっぱり必要…ですよね…」
『ヒトはお金とモノを交換するんだよな?』
【はい。その通りです。私は商人でしたから、お金を稼ぐ方法は色々と知っています。ですが…そうですね…何もない状態からお金を手に入れる方法となると…】
商人の霊が難しそうな顔で唸る。
「難しいですかね…」
【いや、方法が無いわけではありません。そうですね…やはり、これしかないでしょうか】
「どんな方法ですか?」
【薬草を集めて売るのです】
「なるほど! 薬草を。どうせなら食べられるキノコとか木の実とかも集めて売れば、それなりの元手になるんじゃないですか?」
【その通りです。その通り、なのですが…】
「なのですが…?」
これは良くない流れなのでは…
【いえ、ね。肝心の薬草や食用キノコを採取するには、知識が必要です。ですが私はそちらの商品を扱ったことが無く…知識が無いのですよ。専門外、と言うやつでして…】
「オーマイガーッ!」
俺は思わず叫んでいたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます