第4話 靴、つくろう!

 洞窟の入り口を目指して歩き出してみたものの、向かう先に出口があるという確証は無かった。

「これ…奥に向かってたりしないよな…」

 誰にともなく言ってみるが、当然ながら応えてくれる人が居るわけもなく。自分の声は暗い洞窟の中に吸い込まれていく。

「んー…」

 足の裏が痛いこともあって、ちょっと休憩をしようと立ち止まった。

 振り返って後方を確認してみるが、前方と何も変わらない岩肌だらけの光景にため息が出た。

 どっちが出口か知りたい。

 実は奥に進んでいて詰んだ! とかにはなりたくない。

 だが、どちらが出口かなんて今の俺に分かるわけもなく。

 そしてまた、ため息。

 見上げたところで見えるのは岩肌だけだが、頭上を仰ぎ見ずにはいられなかった。

 ん? 岩肌…じゃない?

 なんだあれは…若干光ってる…? なんか、動いてる…?

「こうもり?」

 そうだよ。あれ、コウモリだわ。

 岩肌に黒い斑点がもぞもぞ動いてる。それも、いくつもいくつも…それこそ無数にびっしりと黒いテクスチャを雑に張り合わせたかのように、前方から後方まで、見える範囲全てに。

「うわぁ…」

 いろんな意味で思わず声にしていた。

 それにしても…凄いな。こんなに居るのは、さすがに初めて見た。

 などと圧倒されつつ立ち止まっていると、身体の局所に集合している泡たちが揺れた。

 これは…風…と言うほどではないが、確かに空気の流れを感じる。

 立ち止まったからこそ分かったんだと思うが、ともかくコウモリに感謝だな。急がば回れ、とはよく言ったものだ。


「とはいえ、だ」

 空気の流れは確かに感じたが、結局どちらに行くべきなのだろう。やはり空気が流れていく先へ向かうべきなんだろうか。

 いや、入り口から空気が入って来るのであれば、空気が流れてくる方へ向かうべきなのか。

 さすがに洞窟についての知識なんてこれっぽっちも持ち合わせていないので、感覚的に分かることがあったとしても、それを活用することが出来ない。

 ネット検索がいかに優秀なものであるのか、痛感させられる。

 どうして良いか分からず途方に暮れたまま、頭上の岩肌にぶら下がるコウモリたちをぼんやりと見つめていると、不意に羽ばたく音が背後から聞こえてきた。

「うわぁっ!?」

 あまりの大きな音に思わず頭を両手で覆ってしゃがみこんだ。

 岩肌の天井に張り付けてあった黒いビロードが、奥の方から一気にめくられてくるように見えるそれは、一斉に飛び立つコウモリたちの姿だった。

 俺の真上に居たコウモリたちも、キーキーという声をあげながら奥から飛んでくる仲間たちと共に飛び去って行く。

「すげぇ…ん?」

 そこで、気づいた。

 洞窟の出口がどちらなのか。

「助かった…かも?」

 足裏の痛みも引いた。

「よし」

 俺は小さく気合いを入れると、コウモリたちが向かう先に向かって自分も足を踏み出した。


 ◆ ◆ ◆


 何とか無事に洞窟を抜け出せた。

 結局一本道だったわけだが、逆に向かっていたらどうなっていたのかは分からない。もしかしたら、酷いことになっていたかもしれない。

 そう思うと、ちょっと震えた。怖っ!

 と、とにかく…だ。なんとかこうして外に出られたのだ。やるべきことは決めている。


「靴、つくろう!」


 そう。足が痛い。足が…痛いのだ。とっても。とってもね! 現代っ子だからしょうがないよね!

 幸いなことに洞窟の外は森が広がっていた。葉や蔓や木の枝はいくらでも手に入りそうだ。ナイフで切ったりして…

「…素手だが?」

 声に出てた。

 自分の思考に自分で速攻ツッコミを入れて、ひと通り落ち込んだ。

「しゃあない…」

 小さくため息をついて、とりあえずどうするかを考えることにした。

 素手で何とか出来る方法を考えてみる。木の葉を草の茎で足に巻きつけてみたらどうだろうか。とにかく一回やってみようか。

 と実行してみたものの。案外うまくいかない…

 草の茎はすぐ切れるし、葉はすぐに破れるし。

 やはり草履ぞうりとか草鞋わらじとか、その辺が必要か?

 でもこんなところに藁なんて無いぞ。どこをどう見ても見当たらない。

 それに、草鞋の藁は乾燥してるものだ。作るにしても、それなりの時間と手間がかかる。まぁそれは仕方がないんだろうけれども。


 グゥゥ…


 それは、俺の腹の虫だった。

「あぁ…マジかよ…」

 どうやら俺は、順番を間違えたらしい。

 そりゃそうだ。人間、生きてりゃ腹は減る。腹が減ってはなんとやら。生きる活力は必須なのだ。

 これは本格的に食べられる何かを確保する必要がありそうだ。

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