第3話 これ死んだらどうなるんだ?

 俺はとりあえず気持ちを落ち着けると、左手に持った洗面器を見つめた。

 タブンスライムの体当たりを防いで、さらには弾き飛ばしたこの強い洗面器は、間違いなくただのプラスチックだ。

 それがあんな効果を発揮したのだ。となると、他のも何か特殊な効果があるのか?

 俺は右手に握りしめていた軽石に目をやった。

「これも…強かったりするのか?」

 口に出してみるが、どうにも頼りない見た目なのは間違いなかった。

 だが、この風呂場にあるもので硬そうなものなんてこれくらいだ。無いよりはマシと言う考えで行くしかない。


「てか、これ死んだらどうなるんだ?」


 心に浮かんだ不安な考えを、耐えきれずに声に出してしまった。

 聴きたくない言葉を自分から口にしてしまうとは…ぐぬぬ。

「くそっ…なんかないのか…そうだ、セーブとかできねぇのか?」

『この場所ではセーブが可能です。セーブしますか?』

 俺の言葉に反応するように、またあの声が頭の中に響いた。


 セーブできる?


 てことは、死んでもここから再開できるって事か?

 え、死に戻りできるってこと?

「まるでゲームだな…」

 まぁそれはそれとして、セーブできるというならしておこうじゃあないか。

 よし。セーブするぞ。

『神のシャンプーを使用し、洗髪することでセーブが可能です』

 え。なにそれ。

 意味不明…でもないか。てか、マジか。

 シャンプー使ってセーブってことは、回数制限があるって事なんじゃないのか?

 シャンプーがなくなったらセーブもできなくなるって事だよな?

 ボトルの中の、シャンプーの残りを思わず確認する。

 うーん…残り十回くらいしか無いんじゃないか、これ。

 なぜ買い足さなかったんだ、俺!

 …今さらだな。こんなことになるなんて思ってなかったんだ。しょうがない。

 だがこうなってくると、リンスとボディーソープが何の役に立つのか、気になって来るな。

 そう思ってリンスとボディーソープをよく見ると、ボトルの上の空間に▼マークが浮いているのが見えた。

「なんだこれ?」

 ▼に意識を向けたとたん、また声が聞こえた。

『神のリンス。セーブ後に使用することで、一週間モンスターに見つかりにくくなります』

 なんだその神アイテム。そう言えば、シャンプーも神のシャンプーだったな。やっぱりこの世界のモノじゃないからだろうか。

 だとすると、こっちは何だろう。

『神のボディーソープ。使用して洗体することで、一週間身体を全ての外的要因から防護することが出来ます』

 何その神アイテム…あれ、ていうことは、今の俺ってさっき風呂入ったばっかだから、この効果も効いてたりするのか?

 そう思って右手を見てみるが、まだ火傷っぽい感じは残っていた。

「さっきの風呂はノーカンなのか」

 なら、全部使ってから一週間で状況を整えるしかないな。

 風呂場の外は、岩肌の洞窟だった。なら、出口があるはずだ。外に出れば植物もあるだろう。蔓とか葉っぱで簡易的な服も作れるかもしれない。そうと決まれば。


「セーブするぞ!」


 そう宣言してシャワーを出し、髪を濡らした後にシャンプーをてのひらに出した。

『神のシャンプー、残り使用回数九回です』

 マジかよ! 残り九回かよ! 見立て通りの回数じゃん! 大事に使おう!

 そうしてワシワシと髪を両手で洗い、白く膨れ上がった泡をシャワーで洗い流す。そして流れ作業的に今度はリンスを出して髪につけ、なじませた。

『神のリンス、残り使用回数九回です』

 ああ、同じなのな! てぇことは、たぶんボディーソープもか。

 リンスをシャワーで軽く洗い流すと、ボディーソープを出して洗体用のヘチマにこすりつけた。何度か握って泡立てて、そのまま身体を洗い始めた。

『神のボディーソープ、残り使用回数三回です』


「これだけ回数違うんかーい!」


 思わず声に出してツッコんでしまった。

 身体の泡は、あえて洗い流さないことにした。そう、漫画とかでよく見るアレを試してみようと思うんだ。

 全身に散らばった泡を集めて、局部へ集中させる。

 よし。これなら隠れて外から見えないぞ。

 …まぁ、一瞬でなくなってしまうと思うが。

「よし…行くか」

 俺は再び必要なものを両手に持ち、風呂場を飛び出した。

 目の前に居たタブンスライムは完全無視して出口を探すために走り…歩き出した。

 ゴツゴツした岩肌の地面に素足…


「あ、足、痛ぇぇぇぇぇぇ!」


 俺は足の痛みに思わず叫んでしまいつつ、洞窟の入り口を目指すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る