第2話 これが俺の初期装備か

 異世界転移とか、もう何年前に読んだか分からん。

 そもそも最近ライトノベルなんて全然読んでないから、現状の流行りなんかも全然分からん。今もまだ異世界転移とか異世界転生とか流行ってるのか?

 まぁ知らんからどれだけ考えても分からん。これ以上この部分を突き詰めるのは無意味だし、止めよう。

 で。

 結局現状確認がまだ出来ていないから、なんとかしよう。

 …寒いからシャワー浴びながら考えよ…


 さて。

 まずはこの場所についてだ。

 外が普通じゃないのは間違いない。恐らく外は異世界とか言うやつだ。そして、俺の知っている現実世界側は、この風呂場だけ…

 身一つで放り出されるよりは、まぁ…マシ…か?

 あとは、風呂場にあるシャンプーとリンス、ボディーソープ、洗体用のヘチマ、プラスチック製の洗面器、踵の角質落とし用の軽石…あと、取り外して持ち出せる部分としては、一応シャワーヘッドも使える…のか?

 うん。なるほどな。これが俺の初期装備か。

 …え、待って。待って待って。服…服、無いんじゃね?

 やべぇ…俺、全裸じゃん…


 ◆ ◆ ◆


 よし。装備は整えた。

 右手には軽石。攻撃力は…1くらいはあるのか?

 左手には洗面器。防御力は…1くらいは有ってほしいなぁ…

 シャンプーとかも何とか持ち出したかったんだが、とりあえず必要があればまた戻って来るという事で、一旦保留にした。

 さぁ…出るぞ。

 まず間違いなく、一番初めにやらないといけないのは、出てすぐの場所に居るあの『プルルン』の対処だ。

 俺の右手を火傷させたあのプニプニは、たぶんスライムとかだろう。ゲームによって、最弱だったり凶悪だったりするアレだ。

 それを倒せるだけの力は、たぶん今の俺には無いと思う。だからまぁ、まずは逃げるしかない。

 逃げて…逃げてそれから…どうしよう。

 まずは着るもの…いや、やはり武器か。いや、身を護る為にもやっぱり簡単な服は欲しいな。

 …よし、決めた!

 俺は意を決して、浴室の扉を開けた。


 目の前には、先ほどチラリと見た水色のプルプルが居る。

 仮称スライム。たぶんスライム。よし、こいつの名前は決まった。

 お前の名前は、タブンスライムだっ!

 一時期読んでた異世界転生もののライトノベルでは、ゲームみたいにステータスが見れたりする事が多かった。俺の場合はどうだ?

 よく考えたら、自分で試すの忘れてた。

 えぇい! こうなったら勢いで行く!


「ステータス!」


 声に出してみる。が…何も起きない。

 それどころか、俺の声に反応してタブンスライムがこちらに飛びかかってきたじゃないか!

 俺は思わず左手に持った洗面器で身を護った。

『シールド技能上昇。上昇率、小』

 いきなり声が頭の中に響いた。

 かなり人っぽいけど、まだどことなく機械的な感じが抜けきっていないボイスロイド的な声だった。そして多分、女性の声だ。

 洗面器に当たったタブンスライムの重量を感じ、俺は思わず洗面器を押し返していた。すると【バキンッ!】という音が出て、ほぼ同時に洗面器が光り、タブンスライムが弾き飛ばされて岩肌に当たってからボトリと地面に落ちた。ピクピクしている…


「洗面器強えぇぇぇぇ!」


 思わず叫んでいた。

『シールドバッシュ発動。対象をノックバック。スタン発動、5秒』

 また声が頭の中で響く。シールドバッシュ? 聞いた事があるな。盾を使った攻撃方法…だったか?

 今の、洗面器が光ったやつがそうなんだろうか。

 ともかく、洗面器が思った以上に使えると分かったのは嬉しい誤算だ。

 まぁでも、言うてプラスチック製だからなぁ…大丈夫かな?

 いろんな角度から洗面器を確認してみたが、どうやら傷ひとつ付いてないようだ。マジで凄いっす、洗面器パイセン!

 そんなことをしていると、弾き飛ばしたタブンスライムが体勢(体勢で良いんだよな?)を整えて、もう一度飛びかかろうとしていた。

 なぜそう思ったのかと言うと、タブンスライムの上に円グラフ的なメーターみたいなものが見えたからだ。少しずつ色がついていく感じは、何かが充電されていってるあの感じをイメージさせた。

「ゲームみたいだな」

 声に出てた。

 これが満タンになるのはヤバそうだ。そう思った俺は、急いで扉を開け、安全地帯(と思っている)である風呂場に飛び込んだ。そしてすぐさま扉を閉める。

「ふぅー」

 とりあえず、一旦仕切り直しだ。そう思うと一気に緊張が途切れ、全身から力が抜けたのだった。

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