第36話 最終話 百合おじ、最後の戦い
オレはティナとトマ王子の前に立つ。
「ティナ、トマ王子! オレが盾になる! 最大奥義をぶち込め! やりかたは教えたよな!?」
実はこの間、早朝ピクニックをしていた二人に必殺技を教えたのだ。
元々ティナは【プレイヤー】だったから、飲み込みも早かった。
「うっそ~。ウチらの攻撃に、耐えるつもり?」
「いくら【第四の壁】を突破できる特異点、イレギュラーだからといって、さすがにナメ過ぎだ」
天使と悪魔が、オレに容赦なく攻撃を繰り返す。
「おおおおおお!」
回し受けを続けるが、最強の攻撃がオレの防御を突き抜けてくる。
さすが、裏ボスというところか。
「ユリウスくん!?」
「ユリウス殿!」
ガセート先輩とアッシェが、一緒になってオレに加勢しようとする。
「来るな! これはオレの仕事……いや、使命だ!」
オレがやらなければ、いけないんだ。ボロボロになったとしても。
「百合ップルを守りながら、百合ップルから攻撃を受けるなんて、超ウケる。百合に挟まれてんじゃん」
「合法的に百合に挟まれる代わりに、痛みを伴うか。なんと浅はかな」
言っていろ。
強引に世間に百合を広めようとしているヤツらに、オレの狙いはわからんさ。
「まだまだ!」
オレはさらに、回し受けの回転を加速させた。
「な!」
「マジで!?」
とうとう、二人の攻撃なんぞ簡単に防げるようになる。
「これぞ、百合の境地! オレは百合を守る。ティナとトマの愛は、穢させない!」
「だったら、ウチらの最大奥義で滅びなよ!」
天使と悪魔が、手を重ねる。
白と黒の衝撃波が、重ね合ったてから放たれた。
回し受けでも、防ぎきれない。
肉体をもって、止める。
「ユリウス王子、準備できました!」
「おう、やれティナ!」
「百合の敵よ、最終奥義を受けよ! 【リリースマッシュ】!」
ティナとトマ王子が、オレの肩を踏み台にした。
衝撃波を討ち続けた状態の二人に、ティナたちの奥義を止めるすべはない。
ティナの拳が悪魔に、トマ王子の一撃は、天使に打ち込まれた。
「散華!」
裏ボスの体内で、ティナたちの魔力が爆発するのが見える。
「が、は!」
「ウチらは、転生しても、百合を、世界にばらまいてやる!」
捨て台詞を吐いて、天使と悪魔は消滅していった。
裏ボスの最期を見届けて、オレは倒れ込む。
「王子!?」
ティナが、オレの半身を抱き起こした。
「しっかりなさってください。今、治療を!」
「いいんだ。よかった。最悪のエンディングを免れた」
実はこのゲーム、裏ボス戦でトマ王子は死んでしまう。
トマ王子が犠牲となり、裏ボスの攻撃を引き受けて、ティナにとどめを刺してもらう展開になる。
その尊さときたら、最高すぎるのだ。しかし、あまりにも悲しいエンディング過ぎた。
ティナとトマ王子が無事ってだけで、オレの勝利は確定なのである。
トマ王子が、ティナといっしょにオレの手を握ってくれた。
あら~。
「王子、よかった。これで……いくらでも生きられる!」
オレの身体が、みるみる再生していった。
「よかったね、ティナ。キミの治癒能力のおかげで、ユリウス王子がもとに戻ったよ」
「いえ、わたしはまだ、なにも」
治癒魔法なんて必要ない!
オレには百合があれば、それだけで元気満タンになるのだ!
その後、トマ王子は正体を隠したまま、ティナと結婚した。
まあ、魔法が発達した世界だから、子孫を残す方法なんて魔法でどうにかなるだろう。
男であるオレが、世話をしてやる必要もない。
「お疲れ様でした、ユリウス王子。女神もお喜びです」
「うむ。オレも楽しかったぞ、メンドークサ」
あの後、天使と悪魔は転生したらしい。結局第四の壁を超えて、地球で無害なJKとして生まれ変わったという。ゲーム会社で知り合って、このゲームを開発する側に回るそうだ。
「さて、あなたを元の世界に帰すか、このままこちらの世界を堪能してもらうかという話だったのですが……」
「ですが?」
「実はもう一つ、救っていただきたいゲーム世界がございまして」
なんでも、また設定がとっちらかった百合ゲーが、助けを求めているらしい。
「よし。わかった。こちらの世界は平和になったから、オレは必要なくなった。あとは、ガセート先輩やアッシェがなんとか維持してくれるだろう」
オレは、立ち上がる。
「さあ、次のゲームで百合を満喫しに行くぞ!」
(おしまい)
百合に挟まれて死ぬ悪役王子に転生した百合男子、百合ップルを見守ります! 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
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