第35話 百合おじが選ばれた理由、狙われている理由

「怖い顔しながら、マッサージしないー」


「おっと。申し訳ない」


 オレは引き続き、足つぼを押さえる。


「うーん。やっぱ耳かきも追加したくなーい?」


「そうだな。そこの聖女と男装勇者。耳かきを頼む」


 耳かき要員として、悪魔はティナを指名した。


 天使の方は、トマ王子を「女性として」指名する。


「ユリウス王子?」


「やってくれ。こいつらは世界の敵ではあるが、特に害はない。今は、だが」


 オレが諭すと、二人は耳かきを始めた。


「あ~。やっぱ女子に耳掃除してもらうのってサイコー」


「足つぼの痛みと、耳かきのくすぐったさを両方味わうってのも、なんだか甘じょっぱい菓子を食うような感覚だな」


 天使と悪魔は満足して、マッサージの時間を終える。



「じゃあお礼に、ウチらは魔王城で待ってるけど」


「すぐに飛ばしてやろう」


 唐突に、オレたちは魔王城まで飛ばされた。


 服装も、白衣から制服に戻っている。


「ここは、我の城ですね」


 アッシェが、辺りを見回す。


 たしかにアッシェが言うなら、ここは魔王城で間違いないのだろう。


「人払いは済ませてある。遠慮せずに戦うがよい」


 城が壊れても、戦闘が終わったら復元されるそうだ。


「ここなら、誰にも邪魔されないよ」


「お前たちを阻むものもいない。保護対象もいないから、存分に戦えるぞ」


 天使と悪魔が、構える。


「さあ、あんたたちの力を見せてよね」


「もっとも、我々も容赦しない」


 裏ボス二人は制服姿から、戦闘モードに変わった。


「エンジェル・ハイロゥ・大ッ・回ィ・転ッッッッッ!」

 

 天使は頭の輪っかを大型化させ、チャクラムのような武器にして投げ飛ばす。

 

「旋風・回し受け!」

 

 さっそくアッシェが、訓練したマギアーツを繰り出した。天使が投げたチャクラムを、回し受けで弾き飛ばす。


「ふーん。以前戦ったときより、やるようになったじゃん」


「あのときは、人質を取ったからな」


 とはいえ、裏ボスたちは卑怯な真似をしなくても強い。


「ならば、こちらも」


 悪魔が、背中に浮かんでいる羽状の自律平気を展開した。



「離れろ。オレに近づいてくる」


 羽根の一つが、オレを切り裂こうとする。

 もう一枚の羽根は、角状の突起物から雷撃を発した。


「バースト・ソバット!」

 

 オレは、対空型の回し蹴りで、剣型の羽根を蹴り飛ばす。魔法型の羽根にぶつけて、雷撃を防いだ。


「さっすが! 女神があんたを欲したのが、わかるわー」


「見事だ。【主人公】であるビューティナを操って、我々に何度も勝利しただけはあるな。だからこそ我々を倒す役割を与えられ、【第四の壁】を越えたか」


 こいつら、オレの存在を知っているのか?

 

「ウチらはあんたを倒して、女神の持つ【第四の壁を破る】能力がほしいんだよぉ」


「メタい!」


【第四の壁】とは、舞台と客席を隔てる壁のことだ。


 つまり天使と悪魔は、「ここがゲーム世界だ」とわかっているってことか。ヤツらは【第四の壁を破る】力を手に入れて、外に出る気なのか。自分たちの安住の地を築くために。



 まあ今のままだと、どうあがいても百合を満喫できない。世界の法則に縛られて、天使や悪魔の使命をまっとうするしかないからな。

 

「ユリウスくん、なんの話をしているのかな?」

 

「こっちの話だ。オレの評判がガラッと変わったことに、関係するかなと」



 とにかく、コイツらを倒さなければ、世界の法則が破壊される。

 

「第四の壁を越えて、我々は世界の法則を捻じ曲げる。この世界に、百合を普及させるのだ」


「そんなこと、させるか」


「なぜだ? 貴様は誰よりも、百合を愛でているではないか。世界が百合で溢れる世界こそ、貴様が最も望む楽園のはず」


「冗談ではない。強制された百合など、なにがうれしいものか!」

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