第34話 百合おじ、裏ボスと対話する

 現れた裏ボスは、ギャルのふたり組である。


 

「ここが魔法科学校かぁ。学校生活って楽しそーって思って学生風に化けてみたけどさぁ。いい感じじゃね?」


 片方は白ギャルだ。くねくねと妖艶な腰つきで、男性の目線を釘付けにしている。印象深いのは、頭部の天使の輪っかだ。コイツは天使族なのである。

 

「貴族たちだから、童貞臭はあまりしないな。プライドが高い分、いたぶり甲斐はあるが」

 

 もう片方は黒ギャルで、生徒会長風だ。黒というより、灰色の肌だが。魔族を象徴するヤギっぽい角を、こめかみから生やしていた。


「逃げてください、ユリウス殿。こいつらは」


「わかっている。二人は、裏ボスだ。天使のほうが【エンゲル】、黒い魔族のほうが【トイフェル】だったか」

 

 まさかの、裏ボスが直々にご入店である。

 

 裏ボス自らが、学園に乗り込んでくるとは。


「認識阻害魔法でも、この学園は突破できんはずだ」


 魔法科学校は、厳しいチェックが入る。魔族の侵入すら、これまで許してこなかった。


「いや、ユリウス殿。話すと結構オープンなんですよね、ここの学校って。素性を明かしても、実力あったらOKって校風なので」


 そういえば、そうだったか。

 魔王が転校してくるくらいだもんな。


「構えなくたって、いいじゃーん。ウチらに攻撃の意思はないしー」

  

「対話をしに来ただけよ。ついでに、足を揉んでちょうだい。立ち仕事で、ふくらはぎがパンパンなの」


 オレたちの店は、足つぼマッサージ屋なんだが。


 ガセート先輩が、人払いを済ませた。


 ヤン王女も名残惜しそうにしていたが、渋々ティナとトマに説得されて帰っていく。

 

「悪いが、同席させてもらうよ。お客さんを覗くようで悪いけど」

 

 小さい椅子をベッド脇において、ガセート先輩がドシンと座る。


「おいじゃ、おねがいしまーす」


 緊張しているオレたちに対して、二人はまったく気にしていない。アウェーにも関わらず、落ち着き払っていた。ベッドに寝そべって、オレたちの施術を待つ。


 オレたち三人に加え、ティナとトマも戻ってくる。


 聖女と勇者、魔王とプレイヤーが揃った。


 それなのに、裏ボス二人はリラックスしたまま、オレたちのマッサージを受けている。


「なんのためにココへ来た?」


「どうでもいいじゃーん。マッサージしてもらいに来たのー」


 コチラの問いかけも適当にはぐらかし、応じようとしない。

 

「ユリウスくん。この二人は、何者だ?」


 質問に答えてくれなさそうな二人を放っておき、ガセート先輩はオレに問いかけた。


「話しても、構わないか?」


 一応、個人情報だ。漏らしていいのか、天使の方に問いかける。


「いいよー。正体がバレたところで、全員ウチらには敵わないしー」


 まったく意に介さず、天使は承諾した。


「話すぞ」と、再度問いかける。


 天使は手で輪っかを作って、こちらに笑顔を向けた。 


「天使エンゲルと、悪魔トイフェル。魔王を倒し、自分たちが支配する側に回った者たちだ」

 

 本来、天使と悪魔は愛し合ってはならぬ。

 その禁を破って、二人は恋に堕ちた。天使は堕天し、悪魔は昇天してしまう。


「悪魔の方は、魔王の部下ではなくて?」


「いや。魔王と同等クラスの悪魔だ。野心はないが、ぶっちゃけ魔王より強い」


 元魔王であるアッシェが、コクコクとうなずいた。負けた張本人であるがゆえ、説得力が高い。

 

「強そうだね」

 

「実際に、強いです。というか厄介なんですよ。戦ってみれば、わかりますが」


「ああ。手ごわそうだよ。相手は完全リラックスしているのに、こちらは手出しできないんだ。お客さんってのもあるけど、実力差がもうにじみ出ているね」


 先輩は座っているだけだが、手にじっとりと汗をかいていた。


「この二人の目的は?」


「光と闇の軍勢、二つとも消すつもりだ」


 故郷が自分たちを許さないなら、いっそ故郷など消滅させればいいと考えているのだ。

 自分たちが、世界の法則を変える側に回ること。



 メタ的な意味では、「女神を殺すこと」が、裏ボスの目的である。



 つまりオレは、「こいつらから女神を守るため」に召喚されたわけだ。

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