第31話 百合おじ、弟子に押しかけられる

 なんと、魔王【灰は灰にアッシェ塵は塵にシュタウプ】は、ラスボスの権利を剥奪されたという。


「どういう経緯で、そうなった?」 

 

「裏ボスに負けまして」


 ああ、なんか聞いたことがあるな。


 

 このゲームには、裏ボスがいる。


 裏ボスを倒すと、代わりに魔王を倒してくれるのだ。こちらが裏ボスを、短いターン数で倒す必要があるが。

 

 

「オレ、というかティナが裏ボスを倒さなければ、解決しないのでは?」


「そうなんですよ。ところが、自分から乗り込んできまして」


 アッシェの結婚当日に、裏ボスが襲いかかってきた。

 ヤンディーネンを盾に取られて、アッシェは何も抵抗ができずに負けたらしい。


「妻は解放されたのですが、ボスとしての権利は取り上げられ、今は妻の家に同居しています」


「つまり、今の魔王城には裏ボスが鎮座していると?」


「はい」


「城を、取り返したいと?」

 

 ここまで聞いて、アッシェは戸惑い気味の顔に。


「どうした? 魔王の尊厳を傷つけられたんだ。リベンジしたくないのか?」


 

「……裏ボスが、尊くて」


 

「あああああ。わかり味が深い」

 


 実は本作の裏ボスは、百合ップルなのだ。どれくらい尊いのかというと、実際に見ればわかる。


 

「あの精神攻撃には、耐えられるかどうか」


「だな。オレも、あれは傷つけていいのやら迷った。クリアのために、渋々倒したが」


 ていうかコイツ、裏ボスの尊さに抵抗できなかっただけでは?


「ユリウス殿、ひょっとして今、『裏ボスの尊さに抵抗できなかった』のでは、とお考えか?」


「うむ。心を読んだか」


 アッシェは【先読み】のスキル持ちであり、相手の思考を読み取って、攻撃を回避するのだ。一度に一人しか読めないため、波状攻撃が必須なのである。


「まったく、そのとおりでございます」


 否定しないのかよ。


 むしろ、今まで感じたことのなかった感情に目覚めてしまったらしい。


 百合のよさを、裏ボスが教えてしまったようだ。

 


「で、裏ボスはなにを企んでいる?」


 そこなんだよなあ。裏ボスって結局ポッと出の強キャラのイメージしかない。設定も、掘り下げられているのやら。

 

「世界征服です。世界に百合を普及させ、男性を排除するのが目的かと」


「理想郷じゃないか」


 いっそ支配してくれ、って感じである。


 とはいえ、そうはいかないよなあ。


 個人的には賛成だが、国家的にはアウトだ。


 主人公のティナも、そうやって動いているのだし。


「で、弟子入りしてどうしようと」


「マギアーツを学びたいことと、百合に耐性をつけるのです」

 

「百合は愛すれば愛するほど、深みにハマるぞ」


「だからよいのです。そうやって空気のように味わうことができれば、きっと耐性が……」


「あれを見てみろ」


 オレは、ティナとトマが座る席を指差す。


「はい。トマ王子は、男装なさっておいでなんですよね。どんな姿になろうと、この魔王アッシェの目はごまかせませんぞ」


 ティナが、トマ王子の頬に口づけしていた。顔についたクリームを、舐め取ってあげている。


「ぐ……っほ!?」


 アッシェは声が裏返り、卒倒した。

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