第五章 転校生は魔王! 百合おじ最後の戦い

第29話 百合おじ驚愕! 転校生は魔王だった!

 アッシェがこの学校に通って、一週間が経つ。

 

(あいつは、魔王じゃないか!)

 

 オレは生徒会で、何度もそう告げようとした。

 しかし、どうしたものか……。


 アッシェ・シュタウプなる転校生は、魔族でありながら人間を装っている。

 しかし、その実態はラスボスだ。


 

灰は灰にアッシェ塵は塵にシュタウプ



 ラストバトルの際に、名前が判明する。


「授業は、普通に受けていたよね」


「ですよね、ディートマル様。スポーツ万能で、勉学も器用にこなしていましたね」


「ただ、誰とも交流をしようとしないんだ。誰からも慕われているが、対人関係はさっぱりしたものだったよ」


 やはり、アッシェが魔王という事実は、オレしか知り得ない情報だったか。


「どうした、ユリウスくん? なにか悪いものでも食べたみたいな顔になってるよ。今日のお茶請けはゼリーなんだけど、口に合わなかったかい?」


「いや、ちゃんといただいている。柑橘が聞いていて、いい感じだ」


 甘いというより、やや酸味が強い。ゼリーからわずかに伝わる甘さが、苦いコーヒーに合う。

 酸っぱいオレンジと苦いコーヒーってのは、相性が悪いと思っていた。

 それがどうだろう。ちゃんとお互いを引き立てている。


 絶妙な甘さ加減が、味のバランスを取っているのだろう。


「そうだろ? 生徒会の二人が、アッシェくんという転校生から聞いて買ってきてくれたんだ」


 二人は、生徒会で出すお茶請けに悩んでいた。

 そこに通りかかったアッシェが、おすすめしてくれたという。


 このゼリーを食っていると、その風景が浮かんできそうだ。

ゼリーを買う百合ップル、てぇてぇ。 


 しかし、ラスボスが生徒会を懐柔しているとは。


「そうか。アッシェが……」


「アッシェくん、気になるかい? ヴァンパイア族だから」


「そういうわけではない。今日は、失礼する」

  


 生徒会の話も終わり、オレは一人もんもんと過ごした。


 こんなときは、百合を満喫するか。


 ティナとトマが通っているカフェに、先回りする。


「ユリウス様、どうしてみなさんにお話なさらないので? アッシェが魔王だと」


「ヴァンパイア族は一応、貴族だ。魔法科学校に通っていても、不思議ではない」


 魔法科なんて通わなくても、十分に魔術知識は豊富ではあるが。


「ヘタに混乱させてもなあ」


 もしオレが、「アッシェは魔王だ」と告げたところで、学校じゅうがパニックになるだけ。

 

「ですが、手遅れになりませんか? みんな洗脳なりをされていては、こちらに勝ち目はありません。お望みとあらば、わたしが仕留めますよ。面倒ですけど」


「いや、メンドークサ、それは待ってくれ」


 テラスでクナイを出そうとしたメンドークサを、オレは止めた。


 生徒が洗脳されたとか、魅了魔法を受けたとかという影響はない。純粋に、彼の人望によるものである。

 今のところは、の話だが。

 なにより、教師がアッシェを普通に受け入れている時点で、なにかがおかしい。


「ヤツの目的はなんだ?」


 人間に化けて、というか半魔族の体を手にしてまで、人間界に降りてきた理由は?


 半魔族は、魔族の中でもかなり中途半端な種族だ。

 戦闘力は、下級の魔族にすら劣る。

 そんな姿を取ってまで、どうして魔法科学校などに入ったのか?


 しかも、人間と交流するわけでもない。かといって、人を見下している印象もなかった。生徒会に、おいしいお茶請けを提供しているくらいだし。


「んあー。わからーん。なんでだー?」


「あの、ここは空いていますか?」


 後ろから、声をかけられた。


「ああ構わんぞ……って、アッシェ・シュタウプ!?」


 なんと、ラスボスがオレに声をかけてきた。

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