第四章 百合おじの休日

第26話 百合おじ、陽キャイベントに参加する

 オレが「生徒会と海に行くから、留守にする」と、ヤンに告げた。

 

「おあいにくさま、ユリウス! あたしは夏はね、祖国の避暑地に行きましてよ! お気遣いは、無用だわ!」


 ヤンが使い魔越しに、そう語る。さりげなく、自慢話を織り交ぜながら。


「まあよかった。気を付けてな」


「どうしてもついていきたいっていうなら、連れて行ってあげなくてもよろしくてよ」


 しおらしく、ヤンがオレを誘ってくる。

 

「すまんな。予定が被っている。ちょうど日時が近いのでな」


 海に行く支度をしながら、オレはヤンに断りを入れた。


「ホントつれない男ね。あとで『そっちに行けばよかった!』なんて泣き言を言っても、知らないから!」


 使い魔がポンッと、姿を消す。


「トマがついてくると知ったら、飛んできただろうな」


 向こうは、トマが女だってことには気づいていないはずだ。もし何かの拍子で知られたら、学校じゅうが大騒ぎになる。


 とにかく、懸念材料が減ったのはいい。




 馬車に乗って、オレたちは海に到着した。


 ガセート先輩のプライベートビーチらしく、周りには誰もいない。

 先輩が、人払いを済ませてくれたという。


「この間のダンジョン、ご苦労だった。今日はそのねぎらいのつもりだから、楽しんでくれたまえ」


「ありがとうございます、ガセート会長」


 ティナが、頭を下げる。


「いや。気にしないでくれ。生徒会入りを許諾してくれたキミたちに対する、新人歓迎会でもあるからね」

 

 オレ、ティナ、トマの三人は、正式に生徒会入りを果たした。

 ガセート先輩に迷惑をかけられない一心で断っていたものの、「いくらでも利用してくれて構わない」という先輩の声に、ティナも首を縦に振る。


「ただユリウス様、色々と生徒会に使われる可能性もあります」


「たしかに、お前のいうとおりだ。メンドークサ」

 

 色々、面倒事を手伝わなくてはならなくなるだろう。前回のダンジョン遠征など。

 が、それはそれだ。メリットのほうが大きい。

 ガセートが強いということもわかったので、遠慮することはないと判断した。


「それはそうと、メンドークサ、お前が一番ノリノリなんだけどな」


「ワタシは、自分の動きやすい水着を選んだに過ぎません」


 スリングショット水着とか、エンジョイ勢にしか着こなせないパリピアイテムだぞ。

 メイドの水着が一番ド派手とか、どうよ?

 

 生徒会のみなさんは、みんな胸をフリルで隠すなど、控えめセパレートなのに。しかもおそろいの。あら~。


「それにしても、意外でした。海水浴なんて陽キャイベントじゃないですか。ゲーマーのおっさんであるあなたが、参加なさるなんて」


「ティナもトマも、一緒にいるからな」


 二人を眺めることがオレの目的だ。 

 

「おまたせしました……」


 ティナが、ピンクのセパレート姿で現れた。オフショルダーで旨をフリルで隠してある。ワンピース水着に近い見た目だ。


「トマとは、別の更衣室を使ったんだな」


「はい。水着を買ったときのも、一緒じゃないんです。わたしを驚かせたいからと」


 ほほう。 


「あ、あの。笑わないでくださいね」


 続いて、トマ……というかマーゴットが現れる。


「お、ぐ」


 どうして、ティナと別々の更衣室で着替えていたのかわかった。


 マーゴットは、黒いヒモビキニ姿だったからである。


 あっら~。

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