第25話 許された百合おじ

 命の危険にさらされれば、ティナは自分を頼ってくるに違いない。

 勇者の血筋に汚名を着せることができ、自分は聖女を助けた英雄になれる。

 ましてや、二人は愛し合っている仲だ。その二人を、引き裂くこともできる。


「くそったれな作戦だな」


 すべては、オレの仕業だったというわけだ。正確には、悪魔に操られていたオレが、すべてのシナリオを支配していたと。


「よくそこまで、お気づきになられましたね。お一人で」

 

「カコデーモンに操られていた、って言われたらな」


 デーモンから真実を告げられて、秒で理解した。


 魔族なら、それくらいやりかねん。

 

「待ってくれ。脅していたとは?」


 トマ王子が、オレに問いかけてきた。


「ん? オレはキミに、ティナの殺害を命じていたのでは?」


「そんな話、聞いたこともないぞ」


 妙だ。オレは操られた状態で……。


「それに、ティナ姫の殺害とはなんだ? ユリウス、キミはそんなことを、企んでいたのか? 婚約者なのに?」


「いや。まったく考えていない」


 かつてのユリウスならいざ知らず、そんな約束など口にしたくもない。


「だったら、それでいいじゃないか」 


「そうか。なら、こっちもそれでいいんだ」


 オレも、混乱しているようだ。


「とにかく解散しよう。脅威が去った今、早く報告をしないと。個人的な話は、帰ってからいくらでもやるといい」


 ガセート先輩が、場を仕切り直す。


「それとユリウス王子」


「なんだ? 先輩」


「キミがどんなヤツだったかは、僕も詳しくは知らない。ただ、今のキミなら信用できるよ。そうだろ? ディートマル王子、ビューティナ王女」

 

 トマもティナも、先輩の言葉にうなずいた。


「……ありがとう」




 帰宅後、オレはメンドークサから事情を聞く。


 トマ王子の故郷であるクーガー家を調査したところ、ティナの命を狙う様子は微塵も感じなかったそうだ。


「ユリウス様、あなたはディートマル王子にティナ様殺害を命じる前に、この世界に転生してきたのです」


 ユリウスがデーモンを見たせいで、心を失ったのは事実だ。


 しかし、オレはほぼ同時のタイミングで、ユリウスの身体に移ったのである。


 元のユリウスの人格は、とっくに死んでいた。

 そこにオレという中身が入り込んで、デーモンの呪縛から逃れられたのだろう。


「なるほどねえ」


 だから、待てど暮らせどトマがティナに手をかけようとする場面に出くわさなかったと。


 起きるはずのイベントが起きなかったのは、そもそも司令役が役割を果たさなかったから、か。

 

「つまり、あなたがユリウスであっても、なんの問題もないってことです」


「よくわかった。報告ありがとう。オレは、許されたんだろうか?」


「許すも何も、あなたは何も悪いことはしていない。安心して生きてくださいませ」

 


 翌日、学校でオレの活躍がまた新聞にデカデカと掲載されていた。


 だから、オレではなくて百合ップルを写せばいいだろうが!


「ユリウス。ちょうどいいところにいた」


「どうした、トマ王子よ?」


「夏休みに、みんなで泳ぎに行かないか?」


 おお、夏休みイベントだと!?

 

 これも、DLCか?


 本編に水着回なんて、なかったはずなのに。



(第三章 おしまい)

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