第23話 百合のバフ効果

「ユリウスくん、これはまいったね」


「ああ。コイツのようなやつは、絶滅するべきだ」


 百合に挟まれて死ぬのは、ゲーム内でのユリウスだけで十分である。


「そこのお主たちも、経緯は知らぬが百合ップルであろう!」


 カコデーモンが、ティナとトマを指差した。

 

「ほほう。トマが女性だと見抜くか」


「ワシは人に姿を晒しただけで心を狂わせるほど、精神攻撃に長けておる。人間の変装など、即座に見抜いてしまうわい」


 ぐっと、握りこぶしを作る。


「トマ、下だっ!」


 オレは、トマの足元を指差す。

 

 地面が盛り上がり、拳のような形になった。

 

 岩のパンチが、トマ王子に襲いかかる。


「【烈火閃レッカセン】!」


 トマが剣を振り、岩型のアッパーカットを両断した。

 

「おお、鉱石を固めて魔剣クラスにまで強化した我が【アイアン・フィスト】を、炎属性の剣で焼き切るか。見事なり、マギアーツ」

 

 とはいえ、トマ王子は息が荒い。さっきの一撃で、消耗してしまったようだ。


 さすがに、トップクラスの魔族が相手では、ヘバるのも早いか。


「どうだ、男装の女よ。ワシと手を組まぬか? 百合が安心して暮らせる理想郷を、共に作ろうぞ」

 

「断る。魔族の指図は受けない」


 にい、と、魔族が笑う。


「お主たち二人は見逃す。だが、この二人はそうはいかぬ。男子は死ぬがよい」

 

 アイアン・フィストとやらが、オレとガセート先輩に殺到した。


「世の男どもは、滅せよ。ワシは百合に挟まれつつ、それぞれのオナゴに種付けをするのだ!」


 うわ、最低な動機だ。


「これはギルティだな、ユリウスくん」


「ああ。百合おじの風上にもおけん」


 コイツがやりたいのは、ただのNTRである。実に悪魔的で、下劣だ。

 

「だが、二人の本質的な強さには、気づいていないようだな」


「まったくだよ。どうして僕たちが、カコデーモンに対抗できるかなんて」


 オレたちは、余裕で魔族の攻撃を弾いている。しかも、会話しながら。


「な、なぜだ!? ワシは地上に上がったデーモンの中でも、最大級の強さを持っているのに!?」


「わからないのか? これが、聖女の秘密だ」


 聖女が側にいると、身体強化、精神耐性、各魔力増幅など、大量のバフがかかるのだ。


 そこに勇者が加わって、バフの力はさらに最強となる。


「お前に百合は、触れさせん! オレが殺してやる!」


「なにを!? 貴様は、魔王様に忠誠を誓ったくせに!」


 なんだと? 


 オレが、魔王の部下だって?


「貴様は功績を焦り、このダンジョンに訪れた。そこで貴様は、ワシの姿を見て心が壊れたのだ。それで、魔王様に忠誠を誓い、余を乱すことになったのだぞ?」


 なるほど。このユリウスという男は元々クズだったが、とっくに心は死んでいたと。

 で、カコデーモンの操り人形になっていたのか。


「知らん。オレは、オレの経緯など、どうでもいい」


「はあ!?」

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