第16話 百合おじは、自分のハッピーエンドを望まない

「わたしは、魔族に狙われています。必ず生徒会にご迷惑をおかけしてしまうので」


 日頃から魔族と戦っているティナは、部活にも生徒会にも入らない。


 心を開く相手は、トマ王子くらいである。


 優しいトマ王子は、ティナを度々助けて、またティナも、トマ王子を助けていた。

 お互い同性がスキ、ってのもあるかもしれんがな。


「魔族ごときが、この生徒会を潰せるものか。そんな心配より、生徒会に入って、この学園の安全をもっと盤石なものにするつもりは」


「結構です。わたしは、自分のことで手一杯なので」


 生徒会の一人が、「あなた!」とテーブルをバンと叩いて立ち上がった。


 他の学食利用者が、何事か? とこちらの様子を伺ってくる。


 しかし、ティナの意思は固い。頑として、生徒会の話を聞こうとはしなかった。



 まあ、そうだろう。

 生徒会に入るとなれば、二人きりの時間はなくなってしまう。

 せっかく、「オレユリウス」という障害がなくなったのに。


「実に残念だよ、ティナ王女。だが、生徒会はいつでもキミを歓迎する。気が変わったら、声をかけてくれたま……」


 ガセート先輩が話している間に、ティナは立ち上がる。もう話すことはないとばかりに。


「ほお」


 さすがに、ガセート先輩も笑顔を引きつらせる。

 

 だがティナは、動じない。食べ終わった食器のトレーを、トマ王子といっしょに片付けに行った。


 ガセート先輩は、二人の後ろ姿を見ながらフフンと満足げに笑う。


「いやあ、いいねえ。気が強い女性というのは、かくもすばらしいものだよ。それにあの二人、恋人って感じがどうもしないのだ。まるで、同性同士のウフフ的な感覚を覚えないか?」


「そうだな」


 そっけなく答え、オレは席を立つ。


「あんなコを入れるんですか?」と、生徒会の一人が話し合っている。


「あんなコだから、ほしいのさ」


 ガセート先輩は、あきらめていないらしい。



「何も覚えてらっしゃらないんですね?」


 トレーを片付け終えたオレに、メンドークサが語りかける。

 

「男キャラは覚えない主義でね」


 正直、コイツの話には興味がない。


「それに、ああいったタイプは実にロクでもないタイプだ」


 ゆえに、オレはDLCシナリオも適当にこなした。


「かなり距離をおかれてらっしゃいましたね?」


「だって、オレはあの生徒会シナリオの途中で雷に打たれて死んだからなぁ」


 何が起きるか予測ができない以上、深く詮索するべきではない。


 それにしても、さっきのガセート先輩の反応はなんだ?

 百合百合に対して、なにか思うところがあるというのか?


 あのガセートとかいう男、一体何者だ?


「それはそうと、一つお伺いしても?」


「なんだよ? メンドークサ?」


「あなたは、自分が助かりたいから、女神の要求を飲んだと思っていました」


「ああ、それな」


 たいていの【ゲーム転生】ってのは、目的が「破滅エンド回避」になるはずだ。すべてのゲーム転生を読んでいるわけじゃないから、断定はできないが。


「なのにあなたは、自分に恋愛フラグが立っても、まるで活用しようとしません。なぜです? 今のあなたは好感度がかなり高まっています。多くの生徒から、注目されているんですよ?」


「まあ普通、元不良が更生したら、好感度バク上がりだよな」

 

 オレでも、そう思う。


 しかし、オレは自分の幸せに興味がない。

 ティナとトマが幸せになってくれるなら、オレはいっそ死んでも構わないのだ。

 女神はオレに、死ぬなというが。


「人のために殉じる、というのですか? あなたらしくもない。そこまで社会貢献をなさるような方だったとは」


「いや。オレはいつだって自分勝手だよ。自分勝手に、二人を守るんだ」


 そのためなら、オレはいつだって死んでやる。


「ただ、あなたに死なれては困りますので」


「オレが死ぬと、どうなるんだ?」


「シナリオ展開上、二人が破滅します」


 そういう仕様らしい。


 オレが悪党だろうと、活躍している英雄だろうと、結果は同じなんだそうで。 


「別にオレは、死ぬつもりはないさ。それより生徒会長だ。先が読めない以上、かかわらないほうが身のためだな」


 オレは、そう思っていた。


 だが生徒会側は、オレたちを放っておいてくれない。


 緊急の呼び出しなんぞ、してきやがって。

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