第14話 不穏な影と、不審者な百合おじ
「どうした、話せないのか?」
オレが追求しても、ヤンは話そうとしない。
「決闘に負けたものは、勝者に従うのがルールだ。それとも、なにか縛りがあるとか?」
「そ、それは……」
「ん?」
ヤンの背後に、なにか光るものが。
「おっと!」
オレはヤンを、抱きかかえてどけた。
「何事だ?」
「ユリウス王子、どうやら敵のようです」
メンドークサが、空を指差す。
「グゲゲゲアア! よく見抜いたなあ! ギャギャハア!」
いかにも魔族然としたガーゴイルが、空中に浮かんでいた。
黒幕か、あるいはその手下のお出ましだな。
どうせ、魔族辺りだろうなと思っていたが。
「メンドークサ。ヤンを頼む」
ヤンをメイドに預け、オレは戦闘態勢に。
「なるほど。魔族か。どおりで、ティナが狙われるわけだ」
ティナたち聖女は、魔王が地上に攻めてくるのを抑え込んでいる。
聖女の結界を抜けてくる弱い手下の魔族たちが、地上で悪さをしているのだ。すべては、魔王がこの地に顕現できるように。
「ユリウス! 貴様も我々と契約をしていたはずギャ! なのにどうして、ティナ王女に剣を向けないのギャ?」
「うるさい。オレはオレのやりたいようにやる。魔族の事情など、知るか」
「だったら、貴様から死んでもらギャアアア!?」
ガーゴイルが何かを言う前に、ティナの飛び蹴りが魔物を貫いた。
「ティナ?」
「せっかくのデートを邪魔した、報いです」
着地したティナが、服のホコリを払う。
ティナは人間相手だと手加減しているだけで、魔族相手だと容赦しない。
しかもティナは、「オレが周回プレイして鍛えた状態」である。
つまり本来なら、ティナはオレと同じくらい強い。
人を相手にすると、うっかり殺してしまう。そのため、普段はパワーをセーブしているだけなのだ。
「ウソ……あたし、あんなバケモノと戦うつもりだったの?」
ティナがふるったあまりの強さに、ヤンが愕然とした。
「わからなかったのか? お前がプールでティナを襲っても生徒たちが無事だったのは、ティナが防護結界を張っていたからだ」
「う、うそよ! じゃあどうしてトマ王子様は、ティナをかばったのよ!? 結界なんて!」
「自分には効果のない、結界だったんだよ」
すっかり、ヤンは怯えきっている。
「あの、ありがとう。ティナ王女」
顔を背けながらも、一応ヤンはティナへ感謝を述べた。
オレとの戦いでも心が折られたようだが、ヤンは自分が恋敵に助けられたことで、ティナへの敵対心も消え去ってしまったらしい。
まあ、オレはプレイしているから、このルートも知っているが……。
「いえ、ご無事で何よりです」
ああ、サブキャラとの百合もたまらんなあ。まあ、浮気しないのが王道だが。
「今後、あんたの邪魔はしないでおいてあげるわ」
「お邪魔だなんて。これからも、お友だちでいてください」
「こんなあたしでも、友だちって呼んでくださるの?」
「はい。復学に関しても、なんでしたら学長に掛け合って」
「そこまでなさらなくても、結構よ。ケジメはつけるわ」
ヤンは、振り返って立ち去った。その靴音からは、いつもの苛立ちを感じない。
「無事か」
「はい。マーゴット様」
「ケガがなくて、本当によかった。ティナ」
「マーゴット様。あなたとこうして、またお話がしたいですわ」
「できれば、トマ王子の格好でお願いしたいな」
「そんなあ。似合っていますのに」
ティナの言葉に、オレもメンドークサもうなずいた。
「誰かチェキ持ってねえか? マーゴットのお姿を、永久保存したい」
「この世界のカメラは、ポラロイドではありません」
「そんなー。クソ。脳内補完するために、もっと拝まねば!」
「まじで不審者丸出しですね、王子」
――数日後。
オレの家に、お隣さんができた。
魔法で一晩ででき上がった屋敷には、ヤンが住んでいる。
「どういうつもりだ、ヤン!? オレの隣に引っ越してくるなんて!」
「リ、リモートだったら、どこにいたっていいでしょ!?」
「だからって、オレの近所にいなくても」
「勘違いしないで! あんたのそばにいたら、トマ王子のカバーができると思ったからであって、あんたに気があるわけじゃないから! 誤解しないでよね!」
たしかにオレは、すべてのエンディングを制覇した。
そのうちの一つが、ノーマルエンディング:D『ヤンデレ悪役令嬢の改心』である!
まさか、こんなところで発動してしまうとは!
気まぐれで、助けるんじゃなかったぜ。
このままでは、オレが注目されてしまう。
オレはこの世界においては、日陰者でいい。主人公はあくまでティナであり、ヒロインはマーゴットこと、トマ王子だ。
その二人を差し置いて、オレが主人公的な活躍など、すべきではない!
「ヤンデレが浄化されて、ツンデレになりましたね」
「いらん」
身近な障害が消えたのはいいが、オレがモテてどうするんだ!?
(第二章 おしまい)
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