第13話 百合おじさん・ユリウス、強さの秘密

 ヤンが、ティナとマーゴットの席を見下ろしている。


「あんたのせいで、トマ王子との逢瀬ができない状態になっちゃったの。責任取ってよね」


 店の中で、ヤンが刃物を取り出した。


 狼藉者の登場で、カフェの客が逃げ出す。


 店番をしている冒険者が、ヤンを止めに入った。


「邪魔を、しないでよ!」


 カフェのドリンクを使った衝撃波で、冒険者の武器がズタズタに。


「ひいいいい!」


 屈強なはずの冒険者が、腰を抜かす。 


「あたしはティナをお話をしているの。ザコは引っ込んでなさいよ!」


「待ちたまえ」


 オレは席を立つ。

 隠れて見守るつもりだったが、危険が及んでいるなら仕方がない。


「またアンタなの、ユリウス?」


「ザコじゃなければ、いいのだろ? 相手になろう」


「まあいいわ」 

 

 ヤンが手袋を外す。オレの方に投げ捨てた。


「決闘の仕切り直しよ。あたしが勝ったら、今度こそ邪魔しないでよね」


「承知した。お前が負けたら……」

 

「今のあたしが、負けるわけないでしょ? 場所を変えましょう」


 オレの言葉を無視して、ヤンはさっさと店を出ていく。



「ここでいいわよね?」


 街の門から出て、草原に到着した。


 障害物もなにもない。


「だが、お得意のお水がないぞ」


「いや、あるぞ! メレイド湖だ!」


 トマ王子が、森の奥を指差す。


 メレイド湖……ティナたちがデートでよく使っていた場所だ。霧を発する魔物がいるため、目くらましにちょうどいいのである。


「死になさい! 【ミスト・ブレット】!」


 ヤンは霧の水分を密集し、弾丸にして飛ばしてきた。


「これだけ細かい粒子なら、マワシウケも間に合わないわ! 炎で蒸発させたとしても……」


 オレは炎魔法で、霧を蒸発させていく。しかし、高熱で腕や頬にヤケドを負った。この世界に来て、初のダメージかも。

 気管に入ると、まずい。


「今のあなたは、自分でミストサウナを作っているような状態よ!」


 震脚で霧の発生を止めようとしたが、振動が散ってしまう。


 これは、他のヤツが力を貸しているな。

 たしか、他のやつと言えば……。


「アハハ! 永遠に襲ってくる水を相手に、くたばるがいいわ!」


「それはどうかな?」


 オレは、メレイド湖が見える高さまで跳躍した。


「お疲れさん」


 炎で矢を作って、放つ。


 ミストを形成しているナマズの魔物を、炎の矢で黙らせた。

 この魔物は普段、湖の中に隠れている。だが、ヤンが魔法の発動で水を全部抜いてしまったため、丸見えなのだ。


 ナマズが昏倒してしまえば、こっちのもんである。

 

「だがこっちには、大量の水がある。プールとは比較にならないほど」


 ヤンが操る水を、オレは震脚ですべて無効化した。


 水の操作が止まり、ヤンは盛大に湖の水をかぶる。


「震脚を止めていたのは、おそらくナマズだろう」


 オレの震脚に合わせて、ナマズもバウンドして効果を相殺していたのだ。

 そのナマズを気絶させたので、もう震脚無効は使えない。


「どうして、どうして勝てないの!? あんたの強さなんて、たいしたことなかったはずなのに! ああんたは策略家でしょ!? マギアーツだって『古臭い武術だ』って、習うことすら放棄したのに!」


 腰を落として、ヤンは戦意を喪失させた。


 わからないのか?


 

 オレはこのゲーム『悪役令息は、オトコのコ♥』を、何周もしているんだよ! 全部のエンディングを制覇するために!

 どれだけの苦行だったか。仕事をしつつだぞ。ない時間を削って、日常生活をすべてゲームに費やした。

 このマギアーツ技術も、本来はすべて「ティナが習得したもの」である。周回して、レベリングを引き継いで、アイテムも全部引き継ぎして。

 

 そのデータの状態で、ユリアンの姿で転生している。



「おしまいだな」


 オレは、相手の懐に飛び込んだ。


 ヤンが、顔をかばう。


 そこで、オレは手を止めた。


「とどめを刺しなさいよ」


「お前は負けた。条件をいう。黒幕が誰かを吐け」


 ヤンの眉が、ピクリと動く。


 やはりか。


 どうも、シナリオにズレが生じている気がしたのだ。


 なにか、妙な動きがある。

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