第12話 百合おじ、百合デート観察を満喫

 女性の格好をしたトマ、いやマーゴットが、ティナと手を繋ぐ。


「さあ、マーゴット、参りましょう」


「あ、ああ」


「もっと女の子らしく」


「え、ええ」


 少しぎこちないが、マーゴットはそれっぽく振る舞った。


「あそこのカフェに参りましょう。安価なのに、世にも珍しい食べ物がありますのよ」


「ホントに? いただこうか……しら」

 

 あら~。

 ぎこちない会話、らしくない仕草。今まで女性扱いされてこなかった分、燃え度がアップしている。


 二人が向かったのは、たこ焼き屋だ。さすが、ゲーム世界である。こんな中世ヨーロッパ世界でも、ユーザーに親しみのある食べ物が並んでいるのだ。小説とかだとケチを付けられるが、ゲームなら許される!


 それに、たこ焼きと言えば!


「あ~ん」


 ティナが、楊枝に刺したたこ焼きを、マーゴットの口に近づける。


「あ、あ~ん」


 マーゴットも、素直に差し出されたたこ焼きを口に含んだ。


「おほお」


 熱さでオホ声を出しつつも、マーゴットはよく噛んでたこ焼きを食べる。


 あっら~。


「こんなイベント、オレが生きている頃に体験したかった」


 ああ、しみじみ。


 いつの間にか、後方腕組みおじさんになってらぁ、オレ。


「ユリウス王子になって、ようやく拝めましたね」


「うむ。おっほお!」


 あまりの尊さによそ見をしていたせいで、オレまでたこ焼きの熱さでオホ声を出してしまったではないか。


 ゲーム内だと、トマ王子ってずっと男装のままなんだよなあ。


 前世のユリウスに服をひん剥かれるってシーンは、たしかにあったけど。あれも、ちょっと肩紐が見えたくらいでとどまっているし。決定的なエロシーンなんかにはならない。

 どちらかというと、女性向けに作られていたゲームである。そのため、過激なシーンなどはカットされていた。

 それでも、十分楽しい。

 もっといやらしい肉体が見たいってのは、ゲスの勘繰りというものさ。そういうのを見たかったら、AVや成人指定マンガでも読んでいる。


 こちとら、「あ~ん」でしか得られない元気成分があるんだよ!


「見事だ。すばらしいな」


「ですね。ようやくマーゴット様も、素直になられたというか」


「おう」


 別にオレは、フェミニストやミソジニーではない。「女なんだから女らしくしろ」とか、「女性はもっと自立すべきだ」とか、特にそういう意見は持っていない。


 あの二人は単に、好きな人と一緒に過ごしたいだけだ。


 オレは、それを見守りたい。


 どんな障害が来ようと、オレが盾になる。


「どなたかと仲良くしているところ、悪いんですけど……」


 その障害ってのは、たとえば、「停学処分になったお嬢様」とかだ!

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