第11話 百合おじ、男装の麗人に女性の服を着させる

 トマ王子を連れて、オレは服飾店へ向かう。


 中世ヨーロッパってのは、服は仕立てるものだったらしいが、ここでは普通に服がおいてある。

 さすが、ゲーム世界だ。服飾関連までリアリティを出すと、さすがにやりすぎと思ったか。そんなの望んでないしな。


「ネコ耳まであるのか」


 あまりこういう店に来ないのか、トマ王子はなにもかもを珍しがっていた。

 

「一応、獣人族に対する侮辱には、当たらないぞ」


 むしろ、デザイン面で指摘を受けるという。


「王子。興味がございましたら、つけてみますか?」


「いやいやいやいや」


 トマ王子が、本気で嫌がった。もう、遠慮しなくてもいいのに。 


「王子、どうせなら、オーダーメードにしましょう。選んだ服は、アイテムボックスに隠しておけるし」


 ティナが、すばらしいアイデアをくれた。


 既存の服でも、ちゃんとマッチするように設定はされている。

 しかし、イチから作っても構わない。

 値段は張るが、自分の着たい服を作れるってのはいいものだ。

 

 ティナが布を選んで、仕立ててもらう。料金は、ティナの側近が払った。


 覚悟を決めた王子が、更衣室へ消えていく。


「いくつか見繕いますので、準備ができましたらどうぞ」


「う、おう」


 ティナに差し伸べられた服を手にとって、王子がうめく。


「あれを着せるのか?」


「まずかったでしょうか?」


「いや。ナイスだ」


 オレは親指を立てて、ティナを絶賛する。


「こ、これでいいか?」

 

 王子が、ミニスカ町娘姿で現れた。

 ややメイドっぽい衣装が、また背徳感がある。

 

「ユリウスッ、こ、これはボクにはちょっと刺激が強すぎると思うんだ」


「なんだ? 文句はティナに言うんだな。オレは服飾店へは連れてきたが、仕立てを頼んだのはティナだぞ?」


「しかし、これはちょっと」


「ニーソとか、最高じゃないか」


 やや日焼けした肌に、白いニーソが映えていた。これは、ティナのセンスに脱帽である。


「もっとパンツルックとか、そういうのがいい。これは恥ずかしすぎる」


「なにをいうか。恥ずかしいトマ王子を見たいのだ。なあ?」


 ティナに同意を求めると、ティナもあいづちをうつ。


「では王子様、僭越ながら」


 メイドのメンドークサが、トマ王子に化粧を施す。本格的に、女性の姿になってもらうのだ。


「キミは、ボクの姿を見て笑ったりしないか?」


「誰もあなたを笑うことはしません。そもそも、この服装はあなたを守るためでもあるのです」


「ボクを?」


「あなたは何者かに命を狙われています。それも、複数の国家が」


 調べた結果、トマ王子を狙うヤツらはかなり多かった。

 クーガー家は、もっとも力の強い国家である。

 ヤン王女に限らなかったのだ。


「できましたよ。ささ、お楽しみを」


 ソフトめな化粧をしたトマ王子は、だれが見ても美人のお嬢様だった。


「これで、街を歩いてくればいい。キミは女として、開花するのだ」


「ボクはもう、自分を隠さなくていいんだね?」


「ああ。むしろマーゴット王女は、いないことになっている。今のキミは、誰でもない」


 思う存分、街を歩いていればいい。

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