第10話 マーゴットとして生きればいいじゃない

「さっきは、ありがとう。ユリウス」


「いや。ティナとトマが無事ならそれでいい」


「それはそうと、ちょっと席を外していただけないか」


「おっと、そうだった」


 オレは、カーテンの向こうへ引っ込む。


 なんたって、トマの爆乳ナイスバディを拝んでしまったから。

【認識阻害】をかけた状態でお邪魔したから、究極形態までは見ていない。それでも、超絶豊満であるバストの形までは隠せないのだから。


 世の男子諸君なら、たまらず脳内に永久保存することだろう。


 まあ、オレは気にしないわけだが。


 どちらかというと、ティナに熱心に看病してもらう、トマが尊すぎる。

 あのトマ王子の、弱りきった表情ときたら! 普段から毅然とした態度で凛々しくあり続けているだけに、ぐったりした姿は背徳感を覚える。

 好きな相手だけに見せる弱み! これぞ百合!

 あら~。

 てぇてぇ。

 カーテン越しの影ですら、もう尊い。もう優勝に近かった。

 色々捗ってしまう。


「待たせたな」


 カーテンが開くと、いつものトマ王子に戻っていた。


「今日もデートするのか?」


「あ、ああ。キミには悪いんだけど」


「オレに遠慮なんてするな。むしろお前たちの仲睦まじい光景を見ることこそが、オレに癒やしをくれる」


「どういう性癖なのか、わからないよ」


 トマ王子が引いていた。


 さすがに、煩悩を垂れ流しすぎたか。


「そこで、デートなのだが」


「ああ。なにか不満があるなら言ってくれ」


「そもそも、お前って学校の外でも男装する意味ってあるの?」


 オレが言うと、トマ王子はハッとした顔に。


「言っている意味がよくわからないね」


「つまりだな。お前って学校で人にバレないといいんだろ? 外で普通に女性の格好をしていれば、バレなくね?」


 ぶっちゃけ、トマ王子は男装の麗人のときと女性のままでいるときとで、顔立ちがまったく違う。違いすぎて、王子であるかどうかなんて判別できないほどに。


「化粧に関しては、オレのメイドが詳しい。女性のままでティナとデートがしたいなら、いつでも言ってくれて構わないぞ」


 それこそ、「謎の町娘・マーゴット」とか名乗ればいいじゃない。

「むしろ名乗ってくれ」って、言いたいぞ。


「ありがとう。助かるよ。ボクの召使は老執事だから、化粧となると難しくてね」


 ひとまず、トマ王子に関してはこれでいいか。


「ティナも、それでOK?」


「わたしは、トマ様がどんなお姿であっても、お慕いしています」


 そこまでいって、ティナはオレの顔を見上げた。

 

「ユリウス王子。わたしの本当の思いを、もう包み隠さなくてもいいのでしょう?」


「いいとも。キミが誰を好きだろうと、キミの自由だ。ティナ」


 もし二人の仲を裂こうとする者が現れたら、オレがやっつける。

 さっきのヤン王女のように。

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