第9話 百合には、ぬくもりを。ヤンデレには、男女平等パンチを

 ヤンディーネンとの、試合が始まった。


 ヤンがさっそく、プールの水でサーペントを作り出す。

 

「ユリウスごときが、あたしに勝てるわけないでしょ!? 一度だって、あたしに勝てたことがないじゃない!」


「それはどうかな? ごたくはいい。かかってこいよ」


 オレは手招きをして、ヤンを挑発した。


「大した自信ね。その鼻っ柱をへし折ってあげるわ!」


 プールの水で作ったサーペントを、オレに向けて放つ。


「【氷河落とし】! ホアチョ!」


 氷属性の魔法を施した足で、サーペントに「かかと落とし」を浴びせた。

 

 サーペントが突っ伏し、プールサイドにへばりつく。

 

「やるじゃない。でも、これで勝った気にならないことね!」


 サーペントの胴体から、水でできた衝撃波が飛んできた。


 プールサイドの床や壁を切り裂いて、すべての衝撃波がオレに向かってくる。


 オレは相撲のシコを踏むように、小さくジャンプして大地に振動を与えた。【震脚】という稽古法だ。同時に、火炎属性魔法を両手に施す。

 

「【熱波・炎烈拳】! ホアタ!」


 両腕を伸ばして、そのままグルグルその場を回った。


 手の炎が、衝撃波を蒸発させていく。


「マワシウケですって!? そんな高等技術、あんたに使えたの!? 訓練嫌いだったあなたが!?」


「人っていうのはな、進化していくもんなんだよ!」


「バカね! マギアーツなんて、武器がなかった時代の格闘術じゃない! そんな古い武術に、あたしの召喚魔法が負けるわけがない!」


 その発想を、覆してやるよ。


 オレは、ヤンに殴りかかる。


「もう一度サーペントを……」


 ヤンは再び、プールの水でサーペントを作ろうとした。


「フン!」

 

 オレがさらに大きく、震脚をする。


「なんですって!?」


 召喚された瞬間に、サーペントは霧散してしまう。地面の振動で、崩れたのだ。


「どういうことなの!?」


「お前の召喚術など、土魔法を施したオレの震脚で砕ける程度のもろさだってことさ」


「だったら!」


 また、水を衝撃波に変える。


 面積が薄いため、震脚でも消えない。


「だが、甘いな」


 今度は、オレは自分に【身体強化】の魔法を施す。


 水のカッターなんぞ、当たらなければどうということはない。スイスイ避ける。


「くっ!?」

 

「これは、痛いぞ!」


 オレは、ヤンの頬に拳をめり込ませた。いわゆる、男女平等パンチというやつだ。


 拳を頬で抱きしめ、ヤンの身体が吹っ飛んでいった。


「そこまで。Winner、ユリウス!」


 先生が、オレの腕を掴んで上げる。


 生徒たちからも、拍手が湧いた。


「なんてやつなの!? 女の顔を殴るなんて!」


 たしかに、一部の生徒からも不快感をあらわにした言葉が飛び出す。


「黙れ。これは、決闘だぞ。お前は戦場でも、同じことをいうのか?」


 先生が、生徒たちを黙らせる。


「顔だけで、よかったな」


 核心を突かれて、ヤンがビクッとなった。


 魔物相手なら、ヤンは首が吹っ飛んでいただろう。

 

 それに、傷つけられる箇所が『女の尊厳』であった場合は最悪だ。ヤンは一生心に傷を持ったまま、生きねばならん。


 ここが学校だったから、そんな目に遭わずに済んだ。


 それがわかっているから、ヤンも女子生徒も反論してこない。


「許可なく生徒たちにケガを負わせた、ヤンの罪は重い。謹慎か、退学で処理を願う」


 オレたちは「決闘」という大義名分があったから、多少の覚悟はあった。

 

 しかし、ティナへの不意打ちは、やりすぎだ。先生の言うように、「戦場だったら」といういいわけは通用しない。決闘だったら、よかっただろう。


 担任が、数名の教師たちと話し合った。

 決闘という非常事態になったため、立会人である担任の他に数名の教師が監視に来ているのである。

 

「職員会議で、話がついた。ヤンディーネン・クーセラ。お前には、自宅謹慎を言い渡す。今後、登校を控えるように」

 

 一応授業はリモートで聞けるが、学校には二度と通えない。学校行事も、すべて欠席扱いとなる。


 ただ、出ていく前にひとつ、聞いておかないと。


 オレは、ヤンのそばに立った。


「昨日、ティナとトマを襲うように野盗へ指示を出したのは、お前だな?」


「そうよ。よく知ってるじゃない」


 頬をおさえながら、ふてくされたように吐き捨てる。

 

 そのこともあって、オレは怒っていた。


 ヤンは殴られても、文句を言えない。


 プールを退場するヤンを見つめながら、「もう一発、殴っておけばよかったか?」とも思った。


 まあいい。一発殴ればいいだろう。


 そんなことより、百合だろ!


 さっそく医務室へGO!


「どこへいく、ユリウス!」


 先生が、走り去ろうとするオレを呼び戻す。


「さっきの戦闘でちょっとケガをしました。医務室へレッツゴーしてきますね!」


 オレはそそくさと、医務室へ向かう。


 トマ王子のときと違って、オレに手を差し伸べてくるヤツらはいない。

 嫌われ者ってのは、そういうものさ。

 

「あら~」


 医務室では、さっそくティナとトマが抱き合っていた。

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