第8話 ヒロインを殺したいヤンデレ

「おい、ヤンディーネン・クーセラ! 過度な攻撃は退場とする!」


「うるさいわね! 先生なんかにあたしの気持ちなんて、わからないわよ!」


 先生の防護障壁より、ヤンディーネン王女の攻撃のほうが強い。

 やはり身構えていないと、先生といえどもろい。こういう局面を、想定していないからな。


 他の生徒たちも巻き込んで、サーペントが暴れ出す。

 

「おっと」


 オレは【認識阻害】を発動した。


 謎の光が妨害しているせいで、ヤン王女は追撃ができない。


「大丈夫か、トマ?」


「平気だ、ユリウス。ティナは?」


「無事だよ、トマ。キミのおかげだ」

 

 トマの様子から見て、あまり無事ではないようだ。止血が必要だな。

 

「ティナ。『キミが責任を持って、医務室へ運ぶ』んだ。言っている意味がわかるな?」


 ハッとなったティナが、怯えた顔から真剣な眼差しになる。トマをお姫様抱っこして、医務室へ走っていった。


 ティナは、治癒を得意とする聖女だ。この局面では、彼女が医務室へ向かうのが適任だろう。


「他の奴らは無事か? やばいなら逃げろ!」


 けが人はいないようだが、みんなヤン王女に怯えている。

 


 ヤン王子は誰よりも、ディートマル王子を慕っていた。

 そのため、トマと異常に親しいティナに嫉妬している。

 政治的な障害でトマとの接触を阻まれているのも、ティナへのヘイトを集める要因になった。


 というかコイツ、オレと手を組んでティナやトマを貶める役割なんだよねぇ。

 本来のシナリオ通りなら、の話だけど……。

 

「どけよ、ユリアン王子! あいつはあたしの獲物だ!」


「だったら、なおさら危険にさらすわけにはいかん。どうしても行くというなら、オレを倒してから行くんだな」


 オレは、水泳キャップを女子生徒にぶつけた。


「あたしと、決闘するっての?」


「それ以外に、意味はないが?」


 いわゆる、決闘の合図である。本来だと、手袋を相手にぶつけるのだが。

 

 ガチの決闘の申し込みに、生徒たちが盛り上がった。

 

 横を見ると、先生が迷っている。

 オレたちの決闘に立ち会うか、医務室へ向かうか。


「先生、決闘の立会人をお願いしたい。時間的に、今なら医務室には養護教論がいます。問題はないでしょう」


 どのみち、どちらも引く気はない。最後まで戦うしか、ないのだ。


「そう、だな。ではこれより、ユリウス王子とヤンディーネン王女の決闘を行う」


 先生が、オレたちの決闘を許可する。


「ユリウス、お前が勝利したら?」


「ヤンの退学だ」


 どうあっても、ヤンにはトマをあきらめてもらう。


「うむ」と、先生がうなずく。


「対するヤン。貴様の勝利報酬は?」


「ティナ王女の命をもらうわ!」


 ならば、負けられないな。


 あーあ。ささっと終わらせて、百合を見に行くぞー。

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