第7話 エロくない水着と、水上模擬戦闘

「着替え終わったな」


「ああ」


 オレが見守る中、トマ王子の着替えが完了した。

 

 我が校のスクール水着は、男女ともセパレートである。


 タンクトップに、膝丈! もう、スク水の醍醐味まるでなし! 


 ポリコレに文句言われたの? ポリコレが、こんなニッチな百合ゲーに文句を言ってくるわけないでしょ!? 

 時代の流れなの!? こういうところでまで、ジェンダーに配慮しないといけないのか!?


 ちなみにオレは、身体のラインがはっきり出る、新スク水が好みだ。なんなら、競泳水着が好きである。どうでもいいけど。


 この作品のスク水シーンを見たとき、オレはゾッとした。表現の自由が、ゲーム世界にまで飛び火しているなんて、と。


 そう思っていた。


……よく考えてみたら、「トマ王子の男装を隠すには、上半身裸ではアウト」なのだ。


【認識阻害】は、謎の光で局部を隠すことができる。だが、恒久的ではない。授業中まで謎の光を発していたら、さすがにトマ王子が怪しまれてしまう。 


 諸々の理由をつけて、公式水泳大会でも採用されるようなスポーティ系の水着に変えられたという。

 公式も、色々と考えてはいるようだ。ガッカリが極まっているが。


 まあ、水着を着る機会は他のイベントであるから、そちらはバッチリ水着を拝むことができる。


「どうした、ユリウス?」


「いや。問題はない」


「もしかして、ボクのハダカをマジマジと見たかったとか?」


 トマ王子が、腕で自分の身体を隠す。

 

「冗談を言うな! オレたちは『あくまでも』男同士だろうが」


 オレは三次元、特に自分の恋愛事情や性事情には関心がない。その代わり、二次元描写の自由度が脅かされていることに関しては、危機感を抱いている。

   

 ぶっちゃけ、オレはトマ王子に興味があるわけじゃない。


 トマ王子の身体は、たしかにすごいプロポーションの持ち主だ。前世のユリウスが、トマに手を出すくらいだからな。

 本作はエロゲーではないから、直前で止められるが。

 

 そのスタイルを拝めるのは、もう少しイベントが進んでからである。


 今は、授業に集中しよう。


「急ごう。先生が待っている」


 屋内プールでは、スポーツ型ビキニ姿の教師が腰に手を当てて待っている。

 

 気を取り直して、授業開始だ。

 

 全員、泳ぐのではない。氷魔法で、水上に立つ。

 

「今日は、水上模擬戦だ。水の上、水の中では、なにが起こるかわからない。水の上で長時間戦闘状態を維持してみろ。始め!」


 二人一組になって、模擬戦闘が始まった。


 生徒たちが向かい合って、思い思いの魔法を撃ち合う。

 

 オレも、他の男子と模擬戦闘を行った。

 

 相手の火球を受け流し、アゴに掌底を決める。


「一本」


 顔面に当てる手前で、オレは拳を寸止めした。

 

「うえ! やっぱお前は強いな、ユリウス」


「マギアーツだけは、負けるわけにはいかんからな」

 

 オレは魔法使いとしては、落第生だ。しかし、こと【魔導格闘術マギアーツ】に関しては誰にも負けない自信がある。

 

「死ねえ! ティナ王女! 【サーペント】!」


 ティナ王女と戦っていた女子が、急に大魔法を唱えた。


 プールの水が、デカい首長竜となって、ティナに襲いかかる。


「アハハハッ! これでトマ王子は、あたしのものよ!」


「ティナ!」


 トマ王子が、ティナをかばう。


 致命傷には至らなかったが、サーペントの牙がトマ王子の背中を切り裂いた。


 まずい。トマ王子の水着が!


 トマ王子の豊満な乳房が、あらわになりそうだ!

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