第4話 嫌われ者の百合おじさん、主人公カップルから感謝される

 野盗はオレを止めるグループと、ティナたちを追うグループで、二手に別れた。


 握手だぜ、そいつは。オレと戦うなら、全力でかからないと。


氷河円舞脚ひょうがえんぶきゃく】!」


 氷魔法と風魔法で足を強化し、野盗に回し蹴りを浴びせる。足先をさらに氷でリーチを伸ばしたため、オレを取り囲む全員が巻き添えになった。


 蹴りを浴びた野盗共が、目を回して気絶する。

 

 あーあ。だから言ったのに。

 

「さてさて、お二人さんは、と」


 二人は、メイドのメンドークサに追いかけさせている。


 メンドークサの魔力を追跡すれば、ティナとトマを見つけるのは早い。

 

 あれ、まだ逃げきれてないじゃん。あの二人。

 どうもティナが鈍足すぎて、すぐに追いつかれてしまったらしい。


 ティナは、トマ王子だけでも逃げろと手を放そうとしている。

 しかしトマ王子に、そんなことができるわけがない。ティナをかばいつつ、野盗を撃退しようとしている。


 まったく。トマが活躍しないとしょうがないじゃん。


 オレは民家の壁に、足の裏を貼り付ける。雷撃属性魔法を足に付与して、跳躍した。

 

「うらあああ! 電光超加速!」


 さっきの超加速より、さらに足を早める。


氷河渡りひょうがわたり!」


 足元に氷魔法を張り巡らせ、アイススケートのように滑りながら移動した。


「ほあちょ!」


 ティナたちを襲っていた野盗に、飛び蹴りをぶちかます。


 野盗共には、指先から「氷の矢」を撃って追っ払った。こんな魔物ですらない相手には、目や急所などをつっついてやればいい。魔法の威力も、最低限でOKである。大げさな大魔法なんて食らわせなくてもいい。


「はいい!」


 野盗のリーダー格の土手っ腹に、ボディブローを叩き込んだ。


「ぐへえ!」


 野盗がくの字になって、悶絶する。


「ひいいいい!」

 

 劣勢に立たされたからか、野盗共が一目散に逃げていった。


 これで安心か。

 

「ありがとう、ユリウス・ランプレヒト」


 トマ王子がわざわざ駆け寄って、オレに頭を下げてきた。


「はあ? オレは通りすがりの冒険者だ」


「とぼけなくていい。あれだけ精度の高いマギアーツ。よほどの修練を積んだものでなければ、あれだけの技は出せないさ」


 オレのそばまで来て、トマ王子がオレのマスクを直してくれる。

 

 んだよ、バレバレだったんじゃーん。


「それに、キミのメイドさんに安全な場所を道案内してもらった。なにも話していないのに、どうしてボクたちが逃げているとわかったのか。偶然にしては、できすぎていないかい?」


 ああもう、詰めが甘すぎじゃないですかー、オレサマー。

 せっかく人知れず、誰にも感謝されないルートで行きたかったのによー。

 

 気を取り直して、オレはガスマスクを脱いだ。正体がバレた以上、マスクなんて意味がない。咳払いをする。

 

「礼なら、メイドのメンドークサに言え。あそこのクレープでも食わせたら、ご機嫌になるぞ」


 オレは、路地裏を抜けた先にある屋台を指さした。


「チョコミントを所望します」


 お前も、ノリでコメントせんでええねん。


「あはは。今日のキミには、驚かされてばかりだ。いつもと態度がまるで違うから」


 まあ、別人だからな。


 ユリウスの本来の人格は、キレイさっぱり地獄に落ちたらしいし。アイツがこのゲームに干渉してくることは、なかろう。


 だが、オレがこのゲームで目立っても仕方がない。


 トマ王子から、チョコミント味のクレープをごちそうになる。


 王子は親しげに語りかけてくるが、ティナはまだ萎縮気味だ。

 ムリもない。オレという婚約者がいながら、こっそり他の男とデートしていたんだからな。居心地も悪かろう。


「構わん。デートは続けてくれ」


「なにを言うんです? わたしはあなたの婚約者で、こんな不義理は許されません」


「オレは許すぞ」

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