第3話 街で襲撃される、百合好きおじさん

「楽しいですね、ディートマル王子」


「ティナ、今はトマと呼んでくれ」

 

 ティナとトマ王子が、街へ繰り出す。


 二人はオレに黙って、逢瀬を重ねているのだ。


 もちろん、二人は変装をしている。

 ティナは、町娘風に着飾って。

 トマ王子も、労働者の格好をしている。


 当然ながら、オレも服装を変えて二人を尾行していた。


「ユリウス様、あまり壁の隙間から首を出しすぎると、バレますよ」



 後をつけてきたメンドークサに、声をかけられる。


「しっ。黙って」


 オレはメンドークサに指示を出して、黙らせた。

 


 ティナとトマが、オープンカフェで語らう。



 

 オレが二人の後を追っているのは、あの二人が命を狙われているから。主にオレの私設部隊に! というか、ランプレヒトが派遣した殺し屋に、だ!

 


 ランプレヒト王国とクーガー王国は、キルヒヘアを巡って争っている。

 歴史上、もっとも強い聖女を多く排出しているからだ。

 

 ティナさえ手に入れば、ランプレヒトは勢力を拡大できる。

 ましてティナは、歴代でも最強クラスの聖女だった。


 しかし、クーガー国がそれを妨害している。キルヒヘアを排除し、トマ王子ことマーゴット・クーガーをくっつけたがっているのだ。


 クーガー国も、勇者の血筋として優秀な一族である。

 だが、クーガー家の子息は流行り病で死んだ。

 なので、双子の妹であるマーゴットが、親の期待を一身に背負っている。

 そういうのを、毒親と言うんだけどなあ。


 

 このクッソメンドくさい、三角関係よ!


「ああもう! どうして、どいつもこいつも、仲良くできないのか!」


「王子、あなたこそ、黙るべきです」


「おっと。そうだった」


 オレは口をふさぐ。


 いかんいかん。オープンカフェにいた二人が、周囲を警戒し始めたではないか。


 焦るんじゃない。オレは、百合を愛でたいだけなんだ。


 見よ、二人が歩いているだけで、街が華やいでいる。歩いた先に、花が咲きそうだ。

 これだよ。これぞ、百合の完成型だ。絶景かな絶景かな。


 だが、路地裏に入った途端、その光景は色褪せてしまった。不届き者たちが、百合カップルの行く手を阻んだから。

 

「む? ティナ姫、下がって」


 トマ王子が、ティナをかばう。


 来たか。


 二〇数名ほどの野盗共が、二人の行く手を遮った。

 

 どこから雇った野盗かは、はたから見てもわからない。だが大方、ランプレヒトの差し金だろう。第一、原作ゲームでコイツらを雇うのって、オレことユリウス王子だし。


 さて、お仕事お仕事。

 

 オレはガスマスク型の仮面をつけて、赤茶色のマントを羽織る。


「そこまでにしてもらおうか」

 

 囲まれた二人の真上から、野盗共に声をかけた。


「とうっ」


 オレは、百合ップルの間に入らぬよう、絶妙な間合いで着地する。


「二人とも、逃げるんだ。オレが、道を開けてやる」


「邪魔するんじゃねえよ。このヤロウ!」


 野盗の一人が、ナイフでオレを突き刺しにかかった。


「ほあちょ!」


 膝蹴りで敵の手首を破壊し、続いての前蹴りで野盗のアゴを砕く。


「今だぞ。行け」


 戸惑うティナ。だが、トマ王子に手を引かれて逃げていく。


 それでいい。うまく逃げてくれよ!


「さて、お前たちの相手はオレだ!」


【秘技:超・加速】で、敵の懐に飛び込む。みぞおちに肘打ち。


 敵が一斉に、ナイフを投げてきた。


「遅い。【氷裂ひょうれつ散華サンゲ】」


 オレはナイフに、氷属性を付与した足で回し蹴りを食らわせる。


 蹴り返したナイフが、野盗共に反射して命中した。


「どうだよ、下郎。これが、【マギアーツ】だ」


 オレは魔法のセンスこそ皆無で、ティナやトマにはまったく勝ち目がない。他の生徒にさえ負ける、落ちこぼれだ。

 

 しかし【魔導格闘術マギアーツ】に関しては、誰にも負けない自負がある。


【マギアーツ】とは、西洋魔術と東洋武術とをかけ合わせた、近接格闘術だ。【ガン=カタ】や【ガンフー】の魔法版である。


 ランプレヒトは、聖王国キルヒヘア、勇者を排出する軍事国家クーガーと肩を並べるため、マギアーツを開発した国家なのだ。

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