第2話 「百合に挟まれる」というタブー

「ユリウス王子、ごきげんよう」


 清々しい笑顔で、ディートマル王子がオレに話しかけてくる。だが、放つ魔力は敵意剥き出しだ。


「ごきげんよう。ディートマル王子。相変わらずモテモテだね」


 ちょっと、嫌味だっただろうか。でも、正直うらやましい。いくら相手が、男装の麗人とはいえ。


 一方、オレの方には女性陣の誰も近寄ろうとしない。ぶっちゃけ、嫌われキャラだもんな。オレ。


「ボクよりもっと頼もしい男子なんて、いくらでもいるのにね」


 さらっと、返答してくる。さすが王子様だ。こういう嫌味には、慣れているのだろう。


「ご気分を害したなら、申し訳ない。ささ、それよりティナにごあいさつをして。オレは離れようじゃないか」


「……?」


 フフフ。いつもと「ユリウスオレ」の雰囲気が違うから、戸惑っているな。

 ちょっとは、意趣返しできたようだ。

 まあ、意地悪はこのくらいにして、ガチでくっつけお前ら。


「遠慮するな。確かに彼女はオレの婚約者だ。とはいえ、日常会話をしているだけの仲に嫉妬するような小物ではないさ」


 実はコイツ、超絶小物なんだよなあ。男子が少し会話に割り込んだ程度で、ブチ切れるようなヤツなのである。めんどくさい。「ヤロウのメンヘラは、八方からウケが悪い」って、親から学ばなかったとは。


 オレは違う。どんと来いだ。むしろ二人とも、そのまま逃避行せよ。


「ごきげんよう、ティナ王女」


「ご、ごきげんようっ。ディートマル様」


 あーもう、ティナ王女の声が弾んじゃってるよ。てえてえッ! 朝から、てえてえが過ぎる! おじさん壊れちゃう!


「課題で、難しいところはなかったかい?」


「はい。ダンジョン作成において、玄室の続く箇所にトラップを置くのと、モンスターを配置するので迷いました。どちらが有効なのか、最後までわからなくて」


「ボクは、回転床を配置したよ。正しいルートを進めば、ご褒美の宝箱部屋にありつける仕組みにしてみた。他のルートを選ぶと、魔物のいる玄室に入ってしまうか、強制退去になる」


「いいですね! お得感があります」

 

 二人は他愛もない会話を続けた。

 

 他の女子生徒も、ティナ姫とディートマル王子の恋仲を応援している。


 いいのだ。そういうゲームだから、これ。


 この世界で、オレはトコトン嫌われている。サブの男キャラどころか、モブにすら相手にされていない。ゲームにおいての、圧倒的な異物感が、半端なかった。


 開発陣いわく、「百合に挟まれる男は死ね」というヘイトを、一手に引き受けるキャラとして作ったらしい。


「実に愛らしい。これこそ、楽園というものだ」


 後方で腕を組みながら、オレは二人の会話に耳を傾け続けた。


「お楽しみのところ済まないが、もうそろそろ学校が始まってしまう。では、またお昼休みにでも」


 予鈴に会話を中断させられ、女子生徒たちが残念がった。


 オレ自身が一番、ガッカリしているよー。もっと見ていたいー。


「ああ。楽しい時間になった。ありがとう、ユリウス殿」


「なあに。気が向いたら、いつでもティナに声をかけてあげてくれ。学校の中では、ティナはオレだけのものじゃない」


 学校の外ですら、ティナはオレのものではなくていい。


 ディートマルよ。本当の意味で、ティナを幸せにしてやってくれ。


 だが唐突に、シナリオが牙を剥き始めた。

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