百合に挟まれて死ぬ悪役王子に転生した百合男子、百合ップルを見守ります!

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第一章 百合に挟まれて死ぬ王子に転生したおっさん

第1話 百合ゲームの悪役王子に転生した、百合好きおじ

「ないわー。この王子に生まれ変わるなんてないわー」


 オレは、鏡に写った自分を眺めている。


 百合ゲーム『悪役令息は、オトコのコ♥』をプレイ中に、オレは雷に打たれた。ベランダでノートPCを引っ張り出して、ヘッドホンをしながらプレイしていたのがまずかったか。

 

 死んだオレは女神のはからいで、登場人物の「ユリウス・ランプレヒト」に生まれ変わった。


 このクソ王子、いわゆる「百合に挟まれて死ぬ王子」なのだ。


 どれくらいクソなのか、詳しいことは、他の登場人物と出会ったときにでも話そう。

 とにかく、説明している時間がない。

 

「今は、学校に行く時間だな」


 オレ、というかユリウスは、魔法科学校に通っている。


「魔法石よし。ワンドよし。髪型よし」


「よし、ではありません。ユリウス様」


「おわっと!?」


 美人のメイドが、オレの側にいた。


「セットがまだのご様子ですね。髪を整えて差し上げます」


 メイドはオレを鏡台の前に座らせて、クシでオレの髪をすく。


「うむ。お前、メンドークサだろ? どうして『主人公のメイド』が、ここに?」


 彼女は、オレのメイドではない。このゲームの主人公たる『ビューティナ・キルヒヘア』のお抱えメイドだ。

 オレ、ユリアンとの接点なんて、どこにもないはず。


「私は、ユリウス様のメイドとして雇われています。今は、『ハヤシ勇利ユウリ様』、四八歳とお呼びしたほうがよろしいでしょうか?」


 メンドークサが、オレの前世の名前を口にする。

 

「いや。結構。話を続けようか。あと実年齢の話はやめて」


「かしこまり」


 彼女の言葉で、オレはだいたいの察しがついた。


「メンドークサは、オレのガイド役だな?」

 

「そうです。今あなたは、主人公の『ティナ王女』ではなく、『ユリウス王子』になっています。ユリウス王子が転生先では、なにかと物入りでしょう。『手助けをなさい』と、あなたを転生させた女神から仰せつかっております」


 女神め、いきなことをしてくれる。


 朝食を済ませ、オレは学校へ向かう。馬車で来た。


「では王子、お供いたします」


「うむ」


 この手のファンタジーでは、魔法科学校にメイドを連れているのは普通のことである。

 といっても、メイドたちには更衣室の離れで過ごしてもらうのだが。

 

「ごきげんよう。ティナ王女」


「ご、ごきげんよう。ユリウス王子」


 遠慮がちに、ボブカットの少女がオレに一礼をした。


 彼女こそ、このゲームにおける「本来の主人公」、ティナ王女こと【ビューティナ・キルヒヘア】である。


 ああ、尊い。同じ空気を吸っているってだけで、癒やされる。


「キャー! ディートマル王子様ぁ!」


 女性陣から、黄色い声援が。


 黒髪ショートカットの男性が、女子生徒の視線をすべて引き受けていた。オレなんてモブだと言わんばかりに。


【ディートマル・クーガー】王子は、本名を【マーゴット・クーガー】という、幼い頃に病死した双子の兄ディートマルとして、魔法科学校に潜伏している。

 目的は、ティア王女の命だ。


 しかし、ディートマルは後に、ティナを愛するようになる。


 ディートマルが女であることを知ったユリウスは、あろうことかディートマルと男女の関係を迫るのだ。


……な? 殺されても文句を言えないだろ? シナリオ上、絶対に死ぬんだけどね。


 女神はオレに、「死なずに二人を見守って、百合ップル二人をくっつけろ」と無理難題を押し付けてきたのだ。

 世界のためだからと。

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