三三章 まだだ。まだ、おれたちがいる
「世界が……世界が
「エル……」
ニーニョはエルの肩にそっと手をおいた。静かに言った。
「まだ終わっていない」
「えっ?」
「まだおれたちがいる。おれたちが戦うんだ」
「戦う?」
「そうだ。こんなことになったのはおれたちのせいだ。だから、おれたちには責任がある。おれたちより先に誰かを死なせちゃいけない」
「ニーニョ……」
エルも笑顔になった。涙をぬぐった。立ちあがった。
「そうね。あたしたちがいるかぎり、まだ終わっていない」
「そうとも。なあに、心配することはないさ。なんたっておれたちは
この
「うん!」
ふたりはしっかりとお互いの手を
デイモンたちがゾディアックの街へとおりてくる。後からあとから、
その
歴史上、もっとも力の差のある戦いだった。
けれど、ふたりは笑っていた。お互いを見やる表情にはもう不安も
「ニーニョ。あたしより先にあんたを死なせはしないからね」
「おれだってそうさ。お前を先に死なせたりしない」
「それじゃ、あたしたちどっちも生き残ることになっちゃうね」
「そうだな。それで行こう」
ふたりは笑顔をかわしあった。どんな多くの言葉を尽くすよりもはっきりとその笑顔はお互いへの信頼を伝えていた。
ふたりは
デイモンの
デイモンの
「さあこい! おれたちはエスネとマッキンファーレイの
エスネとマッキンファーレイ。
ニーニョのその
「ニーニョ!、ニーニョ! あたしたち、まちがえてた!」
「まちがえてた?」
「そうよ! エスネとマッキンファーレイはただ助けを求めたんじゃない! 自分たちでドルイム・ナ・テインを守る、その決意を込めて自分で炎を
「そうか! おれたちにはおれたちの《
「そうよ、だから……!」
「ああ!」
ふたりはそれぞれの
「魔王エーバントニア! この
デイモンの
なにが起きたのかふたりにはわからなかった。わかったのはデイモンたちが逃げはじめたということだけだった。数えることもできない無数のデイモンたちが
エルとニーニョは
エルとニーニョは同時に叫んだ。
「魔王エーバントニア!」
次元を
たったひとりの魔法使いの登場によってデイモンたちは戦意を失い、逃げ帰っていったのだ。ただそれだけで――。
魔王エーバントニアの
空の《門》が閉まった。同時に空を
ゾディアックの
「危ないところでしたね」
静かに――。
「事情を聞きましょうか」
そう言った。
それでいいのだ。
エルとニーニョはごく自然に
人間には見てはいけない
「なるほど」
話を聞きおえた魔王エーバントニアは静かに言った。
「そういうことですか」
「はい。あたしたちがなにも知らないばかりに大変なことをしてしまいました」
「おれたちのせいです。どんな
ふたりは魔法使いの後ろ姿に向かって必死に
「私は君たちを
「それじゃ……!」
ふたりの
「ええ。石とかわったすべての生き物を元に戻します」
エルとニーニョは抱きあって
「そうだ、魔王さま! ついでにもうひとつ、お
「あっ、そうだ、それがあった! お
ふたりの言葉に魔王エーバントニアはにこやかに
「それは私のすべきことではありません」
「えっ? だって……」
「君たちは今回の
その問いに――。
エルとニーニョはお互いの顔を見合わせた。
「いいえ、無理です」
きっぱりと、ふたりは同時に言った。
「ニーニョがいてくれたから、くじけそうになるあたしをいつも
「おれだって。《バロアの
「そう。君たちはそのことを
エルにもニーニョにもその言葉の意味はわからなかった。でも、それが正しいのだということはわかった。自分たちの
「では。すべてを元に戻します」
魔王エーバントニアが片腕をあげた。なにかが世界を
エルとニーニョは喜びを爆発させた。ふたりがわけがわからずに戸惑っているおとなたちに飛び付いたとき――。
魔王エーバントニアの姿は消えていた。
エルとニーニョはいったん、住みかにしていたほら穴に戻ってきた。手と手をしっかりと握りあわせ、入り口に立っている。
「あたしたち、家に帰らなくちゃね」
「ああ。なにもかもおれたちのせいなんだ。家に帰って、全部、話して、
「ものすごく怒られるだろうね」
「ああ。もう一生、家の外に出してもらえないかも」
「それどころか
「だとしても……」
「うん。だとしても逃げられない」
「そうだ。おれたちはそれだけのことをしたんだ」
ふたりはうなずいた。
せめて、一緒の
そう
木の皮をはいで作った自分たちに
「さあ、帰ろう」
「うん」
そしてふたりは手をはなし、それぞれの家に帰っていった。
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