二七章 あたしのせいだ……
単に過去を
未来がつづくことを祈って作られた本なのだ。
ふたりは、しずかに本を閉じた。しばらくの間、どちらも無言だった。シーンとしすぎて耳が痛くなるほどの静かな時間が流れた。
ポツリ、と、エルが言った。
「あたしが……やっちゃったんだ」
「えっ?」
「あたしが……バロアの血を引くあたしが『石にする』なんて言ったから、みんな、石になっちゃったんだ」
「まさか! だって、ふたりの血を混ぜないかぎりバロアの力は出せないんだろう? おれたち、血を混ぜてなんか……」
そこまで言ったときだ。ニーニョはあることを思い出した。表情が見るみるこわばり、青ざめていった。いまにも
コクン、と、エルはうなずいた。
「あたし……あんたの血を飲んだ」
ニーニョに流れるミレシア家の血はエルの体内に取り込まれ、ダナ家の血と交わったのだ。
「そんな!」
ニーニョは
ありえない。そんなことがあるはずがない。たった
でも――。
それ以外に説明することはできなかった。現実を見るなら認めるしかない。
そして、それはまちがいなくこういうことだ。
自分たちが世界を石にかえた。
「くそっ! なんてこった」
ニーニョは
「なんで先生たちは、そんな大事なことを教えてくれなかったんだ! 教えてくれていればおれたちだって……」
「ちがうわ、ニーニョ」
「なにがちがう⁉」
「先生たちはいつも言っていた。『ダナ家とミレシア家の人間には伝えなくてはいけない大事なことがある』って。そのたびにおもしろがって逃げ出していたのはあたしたちじゃない」
「サボっていたから……授業をサボって遊びまわってばかりいたから、大切なことを知ることもできずにこんなことを引き起こしたっていうのか……」
「そう。全部、あたしたちのせい」
エルのすすり泣く声がした。
エルの受けたショックは
しかも、それは簡単に防げたことだった。サボって遊びまわってばかりいなければ。先生たちの教えをきちんと受けてさえいれば。
そうしていれば必要なことを知ることができた。それさえ知っていれば、あんなことは
「……全部、あたしのせいだ。あたしが悪い子だったからこんなことになったんだ」
「エル」
ニーニョはエルの肩に
「お前だけじゃない。おれだって同じだよ。過去の自分をぶん殴って、『
「終わっていない?」
「そうとも。おれたちには世界を石にかえる力がある。
「もうひとつの力?」
「そうさ。次元を越えるデイモンたちの能力さ。おれたちは《門》を開くことができる。本に書いてあったろ。『《バロアの
それをすればいいんだ。《バロアの
その言葉に、エルの
「そうか! あたしたちにはまだ、できることがある」
「そうさ。おれたち、とんでもないことをした。でも、まだ取り戻せる。世界をよみがえらせることだってできるんだ」
「そうか。そうだよね。まだやれることがある。だったら、やらなくちゃ。《バロアの
「ああ、そうさ。みんなを元に戻すんだ。そして、そのあとは……」
ニーニョはふいに
ふたりは同時に言った。
「
ふたりは声をそろえて笑いころげた。ヤンチャでおてんばな、イタズラ好きな子供が戻ってきていた。
「さあ。そうとなったら早く行動しなくっちゃ」
エルが明るい声と
「さあ、早く、《バロアの
「おお!」
ニーニョは腕を突きあげて叫んだ。
「でっ、《バロアの
「しらない」
エルはフルフルと頭を振った。
「そんなもの、見たことも、聞いたこともないし。でも、この
「そうだよな。魔王エーバントニアを呼ぶためにはゾディアックの
「それに、バロアの双子が作ったものだというなら、その
「つまり、おれん家とお前ん家か」
「たぶん、両方の家にひとつずつ伝わってるんじゃない?」
それほど大事なものならきっと
「そうかもな。よし。本家の
「うん!」
ふたりは全速力で図書室を駆けだしていった。
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