二一章 血の交わり
そして、
「いまこそ我が一族の実力を見せつけ、正義を
親たちを安心させようとふたりの子供が送った手紙。それがいまやゾディアックを
もちろん、誰もが手をこまねいていたわけではない。とめようとしたものもいる。
王立アカデミーだ。
もともと、このアカデミーは教育を行なうためだけではなく、日々、
いざ戦争、ということになれば
校長の指示を受けた教師たちが走りまわり、
『いまこそ決着をつけるのだ!』
その一点張り。
「そもそも、この
「しかし、ダナ家とミレシア家は共にデイモンの
「
結局のところ、両家ともこの件を口実に長年にわたる
そうこうしている間にも両家は戦争の準備を
王立アカデミーの校長室には一切の
「もうどうしようもありません! このままでは全面戦争です!」
フラン先生が
「お互い、相手を皆殺しにする気でいますぞ! このままではどちらかがまちがいなく
校長先生は静かにうなずいた。
「ダナ家とミレシア家の血は決して交わってはなりません。同時に、このゾディアックの
そして、校長先生は言った。
「国王陛下に王立騎士団の
かくして、
いがみあうダナ家とミレシア家、そして、その争いを力ずくで食いとめようとやってきた王立騎士団。町中に三つの色の制服を着た騎士たちがあふれ返り、火花をちらしはじめた。
いまや、空に浮かぶゾディアックの街は
ふたりの子供の思いつきがいまや、ちょっと前までは想像もできなかった事態を引き起こしつつあったのだ。
もちろん、この事態の急展開は
「どうしよう、どうしよう、どうしよう! このままじゃ戦争になっちゃう!」
エルがこの大胆な女の子にも似合わない涙声で叫ぶと、ニーニョも
「おれだってわからないよ! まさか、こんなことになるなんて……」
「とにかく、とめないと……なんとかしないと……」
「どうやって?」
「考えてよ!」
ふたりは、ほら穴のなかを行ったりきたりしながら頭をひねって考えた。
実のところ、どうすればいいのかはわかっている。自分たちが家に帰ればいいのだ。家に帰ってすべてを
そうすれば戦争は防げるはずだった。
ふたりが家に帰ったからといって、いきなり両家が仲直りするはずもない。でも、少なくとも相手をつぶす
そう。帰ればいい。それが
――そんなことしたら怒られる!
ちょっとした思いつきだった。ただ、大事な友だちと引きはなされたくなかっただけなのだ。
それがこんな事態を
それを想像すると、さしもの怒られ慣れているヤンチャなふたりも顔中が青くなった。
なんとかそれ以外の方法でとめないと。親やおとなたちに怒られることもなく、この楽しい暮らしを捨てることもなく、それでいて争いをとめる方法。でも、そんな方法なんて……。
「そうだ!」
エルが飛びあがって叫んだ。すばらしい考えが
エルはニーニョに言った。
「
「なんだって?」
思いがけない言葉にニーニョは
エルはそんなニーニョの様子にも気がつかない。自分の思いつきを話すのに夢中になっていた。
「そうよ。
「お、おい、ちょっとまてよ」
エルの
「
このヤンチャな少年にして顔中が真っ青になっている。体は細かく
その名前を聞いたとたん、心より先に肉体が
――あんなもの、ただの伝説じゃないか。
などとはチラとも思わなかった。
実際、ゾディアックの
その
「世界はバロアに
「わかってるわよ」
ニーニョの叫びにエルはケロリとして答えた。そのあっけらかんとした様子にニーニョは
エルは考えすぎたせいでおかしくなってしまったのだろうか。争いをとめるために世界を
でも、エルはおかしくなったわけではなかった。いたって
「あのね。あたしだってなにも、本物を
「えっ?」
「おとなたちに『
エルは言葉を切った。片目を閉じて笑った。とっておきのイタズラの
「あたしたちが
「そうか!」
ニーニョは叫んだ。さすがイタズラ好きならエルに負けないヤンチャもの。こういうことは通じるのが早い。
「おれたちが
「そうよ! それで
あっ、そうだ、とエルは叫んだ。またもすばらしい思いつき。自分の頭のよさに
「あたしたち、
「もう誰もおれたちを
ふたりはそろって
なんてすばらしいアイディアなんだろう。
そうなれば争いはとめられる。おまけに自分たちは家に帰ることなく、
ふたりはそろって
「そうとなったらグズグズできないぞ! 早く準備しないと」
「もちろん!」
ふたりは生きいきと目を
両手いっぱいに
魔物のふりならお手のもの。毎年、ハロウィンには手の込んだ
ベッドにしているシーツを広げてつなぎ合わせ、草やら、骨やら、毛やらをとにかく張りつける。木の皮をはいで仮面を作り、野性の木の実をつぶして色を
ふたりは夢中になって作業をつづけた。
「あつっ……」
ニーニョが声をあげた。シーツをつなげている最中、針で指を刺し通したのだ。指の先にプクウッと血があふれ、見るみる血の玉ができあがる。
「なにやってんの」
エルが言いながらニーニョの手をとった。血の浮いた指を口に含んだ。
「お、おいっ……」
さすがのニーニョが
「なによ? 血が出たらなめればとまるって知らないの?」
「知ってるさ! でも……」
「でも、なによ?」
「いや、その……」
ニーニョはこのヤンチャな少年にはめずらしく口ごもった。
「なんでもない……」
ニーニョはそれだけを言うと今度は自分で指を口に含んだ。その指先は妙に甘い味がした。
「変なやつ」
エルは肩をすくめると作業に戻った。
やがて、
壁にかけてランプの明かりで見てみるとなかなかの
なにより、真ん中に大きく
ふたりはそろって満足のうなずきをした。
「これならきっとうまく行くわ」
「ああ。まちがいない」
ふたりは
うまく行くにちがいない。
そう思い込んでいた。
ふたりとも手紙の
『子供の
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