二〇章 戦争がはじまる
門の前に置かれていた手紙に気がついたのは、エルの
まだ一五歳にもならない彼は、
当然、大した仕事を任されるわけもなく、
とにかく、
そのなかには年若い少年にはつらい力仕事も少なくなかった。
その上、
ひとつでも手入れの仕方をまちがえれば、たちまちメイド長であるハウスキーパーからこっぴどく叱られる。ときには、平手打ちを食らうこともある。
幸い、この屋敷の奥さまであるアンナは
それでいて、ボーイの給料はごく安い。何しろ、ボーイの任される仕事は『誰でもできる
そんな
そんななかにあって、あと数ヶ月で一五歳、と言う
実際、かの
上司や先輩からの
ボーイとして
かの
下級の
そんななか、わざわざゾディアックからやってきたダナ家の使用人募集のおふれを見て、
あの頃に比べれば屋根の下で暮らせるし、食事の心配もない。父親のように事故に
たしかに、いまはまだ単なる
でも、ボーイは一生、ボーイでありつづけるわけではない。ボーイとして充分な経験を積み、多くの仕事ができるようになればいずれはフットマン(
フットマンとしてさらに経験を積めば、やがては
そうなればまわりの人々から
そのためには『ダナ家のボーイ』という立場はとても
――いつかきっと、大きな
ドナルドはその日を目指して毎日まいにち、朝早くから深夜にいたるまで仕事に
そんなかの
それはいい。ドナルド自身、元気で、おてんばで、誰にも
でも、しょせん、お
主人の娘とおしゃべりしているところを上司に見られたりしたら、『身分をわきまえろ!』とどなられ、殴られるのはかの
おまけに、
誰もがいやがる仕事だからこそ、毎日まいにち
そのエルがいないのだ。泥だらけの
……もちろん、そんなことは決して口にしない。誰かに聞かれたが最後、まちがいなく主人に告げ口される。そうなれば、
それを思うと、ドナルドは背中に氷でも当てられたかのようにブルッと身が
――お
ドナルドは毎日、自分にそう言い聞かせ、
そのドナルドが門の前に置かれたエルの手紙を見つけた。
いつもの朝の
――なんだろう?
何気なくそう思い、落ちている
ドナルドは文字通り、飛びあがった。
――このまま捨ててしまおうか。
そう思わなかったと言えば
きっと、このなかにはエルがいま、どこにいて、どうしているかが
そうなれば、エルが
それでもやはり、手紙を捨てることはできなかった。たしかに、いろいろ
結局のところ、ドナルドは元気で、おてんばで、自分たち下級使用人にも
だから、ドナルドはすぐに
ドナルドは
そうして、その
ニールは
ニールとアンナは
品のいい、いかにも貴族という感じの顔が見るみる
ドナルドが手紙を渡したことを
ニールはどなりちらしながら馬車を呼んだ。ダナ家
ク・ブライアンは六〇代半ばの
その男が手紙を読み終えるととたんに怒りを
「なんだ、これは⁉ ふざけるのにもほどがある!」
「まったくです」
アンナが熱心にうなずいた。
「妖精の国で暮らしているなんて……でたらめもいいところです! ああ、かわいそうなエル! きっと、ミレシアの
そんな
「うむ、まさしく」
そうにちがいない、と、ダナ家
「こんな
「ああ、お願いです、ク・ブライアンさま! どうかわたしの娘をお助けください」
「もちろんだ」
ク・ブライアンは決意を込めてうなずいた。
「
ク・ブライアンの目に
「皆殺しにしてやるまでだ」
一方、ミレシア家のほうでも事態は似たようなものだった。ニーニョの両親からいきなりの
「おのれ、おのれ、
フィン・ブライアンの怒りはあるいはク・ブライアン以上のものだったかもしれない。なにしろ、ヤンチャで元気いっぱいのニーニョ少年はこの
「こうなったら全面戦争だ! ダナ家の
結局のところ、エルとニーニョはやはり子供だったのだ。子供だから作り話でみんなを
ところが、おとなたちはそんな話を信じるほど
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