一七章 野暮らし、満喫中!

 その言葉通り、ふたりは楽しい日々を満喫まんきつしていた。初夏しょかの丘には食べ物はいくらでもあったし、なにより、指示したり、監視かんししたりするおとながいない。なにをしても、あるいはなにもしなくても怒られない。誰にもなにも言われず、自分で決めたことだけを自分で決めた通りにやれるという解放感はすばらしい。

 なんで、他の人たちはこんな暮らしをせずに窮屈きゅうくつまちの暮らしをつづけているのか不思議なほどだ。一度、味わえばもうやめられなくなるだろうに!

 わなには毎日、獲物えものがかかる、というわけにはいかなかったけど魚は毎日とれた。池の底をあさればザリガニやエビや貝もとれた。まして、野草や木の実となればいくらでもとれた。

 食べられるハーブや野草やそうは辺り一面にいくらでも生えていたし、キイチゴのしげみにはふたりだけでは一生かかっても食べきれないのではないかと思うほどの実が成っていた。

 キノコもあちこちで見付けたし、野性のイモ類も見つかった。これはありがたい発見だった。イモはおいしいし、なんといっても草とちがってお腹にしっかりたまる。

 野性のイモは小さくてヒョロヒョロしているけど味がギュッとつまっていておいしかった。エルもニーニョもそのことに感動して思わず声をあげたほどだった。

 とくにおいしい野草やそうやイモを見付けたら根ごと引き抜いて持ち帰り、ほら穴の上の丘に植えなおした。

 野草やそうは生命力が強いからすぐに育って、あたり一面をおおい尽くしてくれるだろう。そうなればわざわざ遠くまで行かなくてもいつでもおいしい野草やそうが食べられる。

 そんなわけでふたりはちっともお腹をかせることもなく、自然のなかでの自由な暮らしを楽しんでいた。

 ただ、何日かすると問題や心配な点も目立ってきた。

 第一にトイレの問題があった。これは深刻しんこくな問題だった。食べることを我慢がまんすることはできても排泄はいせつ我慢がまんできない。その辺にながすわけには行かないから穴をってすることになる。でも、住みかであるほら穴のなかにトイレをることはできない。においも心配だし、なにより、相方あいかたの目が気になる。

 ――英雄物語には森や無人島で過ごすシーンもよくあるけど、トイレの問題だけは出てこないのよね。その辺、どうなってるんだろ?

 エルは真剣にそううたぐった。

 結局、近くにある小さなほら穴をトイレにすることにした。その奥に穴をり、用を足したあとに土をかぶせる。紙のかわりに大きな葉を何枚もとってきて、でてやわらかくしたものを置いておくことにした。

 いずれは壁に穴を開けてほら穴同士をつなぐことにしよう。そうすれば雨が降ったときもれずにトイレに行ける。

 壁に穴を開けるのは大変な作業だし、時間もかかる。でも、問題はなかった。時間はこれから先、いくらでもあるのだから。

 トイレの問題が片付くと、次にほら穴の入り口にとりかかった。ドアがなくて開けっ放しなので風やほこりが吹き込んでくるし、においにつられてカやハエも入り込んできた。

 不衛生ふえいせいだし、刺されるとかゆい。かゆみ止めの薬もないのでこれは困った。それに、このままでは夜中に他の動物が入り込んでくるかもしれない。

 そこでふたりは入り口にドアを付けることにした。ドアそのものは落ちている木の小枝をひろってみあげることでできた。この作業ではエルのほうが上手じょうずだった。女の子と一緒に花をんでかんむりを作ったり、母親に無理やり教え込まれた裁縫さいほうの経験が役に立ったのだ。

 そのときは『こんなこと!』なんてバカにしていたけれど、いまになってみれば感謝、感謝だ。世の中、どんな経験が役立つがわからない。と、哲学者てつがくしゃめいた表情でさとってみせるエルだった。

 ドアはできた。でも、どうやって取りつければいいかがわからない。単に立てかけただけではすぐに倒れてしまいドアの役には立たない。

 といって、ほら穴の土壁に直接、取りつけることはできない。そのためには普通の家に使われているような蝶番ちょうつがいが必要だけど、そんなものはさすがにもってきていない。

 ふたりであれこれ考え、話しあったすえ、入り口のはしくいわりの太い木の枝を埋め込み、そこにひもくくりつけた。

 これなら多少ぎこちないとはいえ開くことができるし、普段はちゃんと閉まっている。まだ少し隙間すきまはあるけど開けっ放しに比べればずっとましだ。

 入り口のもう一方のはしにも同じように木の枝を打ち込んで、つっかえ棒にした。外からなかに向かって開かないようにだ。

 これで風に吹かれることもなくなるし、夜中に動物が勝手に入り込んでくるのを防ぐこともできる。

 もちろん、大きくて力の強い動物までは防げない。でも、ゾディアックのまちを囲む丘にはもともとキツネより大きな動物はいない。クマやオオカミといった強くて危険な動物は住んでいないのだ。だから、これで充分だった。

 くいわりの木の枝を切り落とすときにはニーニョのもってきたノコギリと手斧ておのが大活躍してくれた。

 ニーニョは男の子らしく、エルのような食器類や着替えはなにひとつもってきていなかったけど、野外生活のための道具はたっぷり用意していたのだ。

 ただ、ドアをつければ当然、外の日差しは入らなくなる。ただでさえ暗かったほら穴のなかは一層、暗くなった。地面の下のかまどの火ではほら穴のなかをあたためることはできても、明るくすることまではできない。といって、普通になどしようものなら、ほら穴のなかがすすけむりでいっぱいになってしまう。

 とりあえず、小さなランプをともすことで当面は解決した。でも、油はほとんどない。必要なとき以外はランプをつけず、夜になったらさっさと寝ることにした。

 それでもそう何日ももたないだろう。近いうちになんとか油を手に入れる必要がありそうだ。

 洗濯せんたくと、着替えの少なさも問題だった。食料を求めて林のなかをうろつきまわれば土がつく。魚をとるために池に入れば泥だらけになる。食事や料理の最中にあぶらが跳ねてみになる。

 そんなこんなで着ている服はどんどん汚れていった。家にいる頃は服の汚れなんてちっとも気にしなかったのに、こうしてだんだん汚れていく服を着ているとなんだかひどく気になる。みじめな気分になってきた。まるで野蛮人やばんじんになっているかのように思えた。

 なにしろ、家にいる頃はどんなに服を汚しても翌日は洗いたてのきれいな服を着ることができたのだ。

 汚れっぱなしの服を着ていることなどなかった。それもこれも家のメイドが毎日、洗濯してくれていたから。

 『汚れなんて!』なんて、のんきなことを言って飛びまわっていられたのはすべて、かげで他人が働いてくれていたからなのだ。そのことを思い知らされてエルは心から反省はんせいした。

 とにかく、汚れっぱなしにしておくわけには行かないので洗濯せんたくすることにした。魚をとるための池の水は飲み水でもあるので、洗濯せんたくして汚すわけにはいかない。他のもっと小さな、魚のあまりいない池を見つけてそこを洗濯せんたくにした。

 池のわきにしゃがみ込み、平らな石に服を押しつけてゴシゴシ洗う。指は痛むし、腰はズキズキするし、思っていたよりずっと重労働だった。

 たった一、二枚の服を洗っただけでこれだ。屋敷やしきじゅうの服を洗濯せんたくしていたメイドたちはいったいどんなに大変だったろう。それでも彼女たちが文句ひとつ言わずに働いてくれていたからこそ、いつもきれいな服を着ていられたのだ。

 ――うう。あたし、屋敷のメイドたちにとんでもない仕事を押しつけてたのね。

 エルは生まれてはじめてメイドに感謝かんしゃした。同時に汚し放題だった自分を反省した。これからはもっと大事にしよう。

 そうちかった。

 ともかく、服を洗って広げてみた。ガッカリした。あまりきれいになっていない。石にこすりつけたせいでヨレヨレになっただけで、汚れはほとんどそのままだ。とくにあぶらよごれははっきりと残ったまま。

 「……だいたい、ここまで汚れたのだってわざと汚すような食べ方をしていたからなのよね。家で言われていたみたいなきれいな食べ方をしていれば、ここまで汚れずにすんだのに」

 マナーにはちゃんと意味があったのだ。エルはいまさらながらにそのことに気がつき、ため息をついた。

 とにかく、一度ついてしまった汚れは放っておいても消えてはくれない。あぶらよごれを落とすためには石鹸せっけんが必要だ。でも、どうやって手に入れる?

 石鹸せっけんの作り方そのものは知っている。まず、木を焼いて灰を作る。その灰を水に溶かして灰汁あくを作る。その灰汁あくあぶら――植物性でも、動物性でもなんでもいい――をぜてれば石鹸せっけんのできあがりだ。

 メイドが作っているのを見たことがあるし、おもしろそうなので一、二度、手伝わせてももらった。だから、作れないことはないだろう。ただ、肝心かんじんの原料であるあぶらがない。やっぱり、なんとかしてあぶらを手に入れる必要がありそうだ。

 洗濯せんたくしている間はその服は着れないわけで当然、着替えが必要になる。ところがニーニョは本当に着のみ着のままだった。他には下着一枚もってきていなかったのだ。

 「洗濯せんたくなんて必要ないさ。もう屋敷やしきらしじゃないんだ。いくら汚れたって関係ないよ」

 ニーニョはそう言っていたけど、林のなかを獲物えものを求めて歩いているうちに木の枝に引っかけて破いてしまうと考えを改めた。さすが奔放ほんぽうなこの少年も、女の子の前で素肌すはだをさらすのは恥ずかしいらしい。

 「やっぱり、着替えをもってくるべきだった」

 と、くやしそうに言いはじめた。

 けれど、一番の問題になったのは食べ物だった。緑の丘は食べ物豊富だからお腹をかせることはない。

 でも、『お腹がかない』というのと『満足する』というのとはちがう。ふたりともだんだん家で食べていた食べ物が恋しくなってきた。

 「パンが食べたいよなあ。こう、大きくてフカフカでさ。丸かじりするとこうばしい味が口いっぱいに広がって……」

 ニーニョがある日、そう言った。エルも思わず頭のなかに真っ白なパンを思い浮べていた。たちまち、口のなかいっぱいにつばがわいた。

 「焼きたてのパンの香りってそれだけでうれしいもんね」

 「それにチーズ。じっくり寝かせたにおいのきついチーズの固まりにかぶりつくのがたまらないんだよなあ。それにバター、ジャム、ハチミツ……」

 「うちのメイドがよくパンケーキを作ってくれたの。小麦粉とミルクと卵をぜてフライパンに流し込んで、さっと焼いて。おいしかったなあ」

 「コーヒーにチョコレート」

 「甘いミルクティー」

 「おいしかったなあ」

 ふたりは声をそろえて言った。

 一度、口に出すともうとまらなかった。頭のなかにパンやら、チーズやら、湯気ゆげを立てるティーカップやらがこれでもかとばかりに浮かんでくる。

 口のなかいっぱいに思い出の味が広がり、いてもたってもいられない気分になった。この暮らしでは手に入らないものばかりだとわかっているから、なおさらほしくなる。

 何がなんでも手に入れたくなった。でも、どうやって?

 ほら穴の上の丘は広い草地だから、小麦をまけば小麦畑にすることはできるだろう。でも、種籾たねもみがない。

 第一、収穫しゅうかくできるようになるまで時間がかかりすぎる。小麦は普通、秋にまいて翌年の春に収穫しゅうかくするものだ。つまり、初夏しょかのいまからだと収穫しゅうかくできるまで一年近くかかることになる。

 ハチミツは手に入る。林のなかには野性のミツバチがいるからだ。でも、ジャムやバターやチーズは無理だ。ジャムに関しては原料となる果物は手に入る。でも、加えるための砂糖さとうがない。

 バターやチーズを作るにはミルクが必要だ。そのためにはちちを出してくれる動物がいる。でも、ゾディアックの丘に必要なだけのちちを出してくれる大型動物はいない。

 どうしても必要ならウシかヤギ、せめてヒツジをどこかの農場から失敬しっけいしてこなくてはならない。さすがにそこまでの『ぬすみ』をやってのける自信はなかった。

 まして、お茶やコーヒーやチョコレートは遠くから運ばれてくる貴重きちょう輸入品ゆにゅうひんだ。この地で手に入れることは絶対にできない。もちろん、服だって自分で作ることはできない。

 つまり、『満足のいく生活』を送るためにはいやでも買い物をしなくてはならない、ということだ。

 ――自分たちだけで暮らしていけると思ってたのに……甘かった。

 自分がいままでなに不自由のない暮らしをしていられたのはすべて、どこかよそで他の人が働いてくれていたからなのだ。そのことを思い知らされ、落ち込むエルだった。

 ――銀のさじを売ってお金にしようか。

 そうも思った。

 でも、銀のさじはいざというときのためのとっておきなのだ。これから先、怪我けごをするかもしれない。病気になるかもしれない。そんなとき、医者にかかれるだけのお金になるのはこの銀のさじだけなのだ。こんなことで使うわけにはいかなかった。

 第一、服やパンはこれから先、ずっと必要なのだ。いくら銀のさじが高価でも、たった一本分の値段でいつまでも買えるわけがない。

 それに、いまになって気がついたけど、銀のさじを売るのは危険をともなう。売りにいくためには素顔をさらさなければならない。顔を隠したあやしい相手の持ち込んだ品など、それがどんなに高価なものでも誰も買いとったりしないだろう。そして、素顔を見せれば一発でバレてしまう。

 なにしろ、エルもニーニョも毎日のように町中を冒険していたおかげで町中の人に顔と名前を知られているのだ。

 そして、ふたりが家出したことはとうに町中にしらされ、探されているはず。そんなところへノコノコ出ていけばたちまち捕まってしまう。そうなればもう二度とこんな暮らしはおくれない。

 いくら、おとなたちがバカだって、自分たちがどうやって逃げ出したかぐらいはわかっているだろう。今度こそ絶対に逃げられないよう完全に閉じこめるはずだ。

 そうなったら屋敷やしきの外にだって一歩だって出られるかどうか。くる日もくる日も屋敷やしきのなかに閉じこめられ、外の世界とのつながりといえば自分の部屋の小さな窓から見下ろすことだけ。そんなのは耐えられない!

 エルはその不吉な想像そうぞう悲鳴ひめいをあげるところだった。

 いくらおいしいパンケーキのためでもこの暮らしは捨てたくない。

 でも、パンケーキは食べたい!

 そのふたつの思いにさいなまれて、エルは気が狂うのではないかと思ったほどだった。

 解決策を考えついたのはニーニョだった。ニーニョの提案ていあんを聞いてエルは目を輝かせた。そうすればこれからはおいしいパンケーキをいくらでも食べられる!

 その日からふたりの新しい仕事が加わった。魚や貝やキイチゴをとれるだけとってはせっせと天日てんびにかざし、干し魚や干し貝、干し果実を大量に作った。

 けむりでいぶして薫製くんせいも作った。ニーニョはまだ小さいくせに野外料理や保存食料の作り方にはやけにくわしくて、こういうことでは本当に頼りになった。

 「あんたって、こういうこと、ほんとによく知ってるわよね。ミレシア家のおぼっちゃんのくせにどこで教わったの?」

 上流階級ではこんなことは教えないはずだ。教えることと言ったら礼儀れいぎ作法さほう小難こむずかしい昔の言葉、それに、社交界にデビューしたときのためのダンスをいくつか。

 教えられること言えばそんなことばかり。野外料理なんてひとつも教えてもらえなかった。

 少なくとも、自分はそうだ。

 ミレシア家ではちがうのだろうか? それとも、ダナ家でも男の子はやっぱり、こういう生き延びるすべも教えられるのだろうか。自分が教えられなかったのは女の子だったから? もし、そうならふざけてる!

 エルが感心するとニーニョは思いきり胸を張った。素直な自慢じまんがむしろ、すがすがしい。

 「へへー、すごいだろ。実は冒険家のおじさんがいてさ。そのおじさんからいろいろ教わってたんだ」

 「へえ、そんなおじさんがいたんだ」

 「ああ。若い頃に『一生、狭苦せまくるしいゾディアックのなかだけで過ごすなんてごめんだ!』って言ってさ。ミレシア家の名前を捨てて独立して、下界げかいに降りていったんだ。世界の果てまで自分の目で見てみたいって冒険家になってさ。いまじゃ下界げかいでは知らない人はいないっていうぐらいの大冒険家さ」

 「うわっ、なにそれ。超カッコいい! いいなあ、そんなすてきなおじさんがいるなんて」

 「へへっー。そうだろ、そうだろ。父さんは『一族も故郷も捨てたろくでなし』なんて言ってるけどさ。おれはこのおじさんが大好きなんだ。いつかはおじさんみたいに世界中冒険したいと思ってるんだ」

 「うん、わかるよ、それ。すごくわかる。やっぱり、ひとつのまちだけで暮らしていくなんてつまらないもんね。せっかく、世界はこんなに広いんだもん。ありったけ見てまわらなくちゃ」

 「ああ、その通りさ。おれはやるぜ。おとなになったら下界げかいに降りて、おじさんみたいな冒険家になって、世界の隅々すみずみまでこの目で見てまわるんだ」

 「あたしも一緒だからね! ひとりでそんな楽しいことしたら許さないわよ!」

 「わかってるって。おれたちは一緒だよ、相棒あいぼう

 「よっしゃ、相棒あいぼう!」

 ふたりはパアンと音高く手を打ち合わせた。

 干し魚や燻製くんせいを作り終えると、今度は林のなかにミツバチの巣を探しに行った。

 見つけるのはむずかしくもなかった。花の咲いている所に行って、しばらくまっていれば、ミツバチの一匹や二匹はすぐに飛んでくる。そのあとを追いかけていけば巣は見つかる。

 そうして見つけた巣は見事なぐらい大きなものでズシリと重そう。これならなかにはたっぷりとみつがつまっているにちがいない。

 ふたりはそれを見て『しめしめ』と舌なめずりした。

 そして、作戦ははじまった。ミツバチたちを刺激しげきしないようゆっくり、ゆっくり、音を立てないよう近づく。巣の下にハーブを山とつみ、火をつける。

 生のハーブなので火をつけても燃えあがらない。けむりばかりがたくさん出る。

 ふたりともけむりにまかれてひどくけむい思いをした。目にみて涙が出るし、せきも出そうになった。

 大きな音を立ててミツバチを刺激しげきするわけにはいかないので口を押さえて必死におし殺す。おかげで息ができず苦しいことこの上ない。それでも、このけむりが役に立つのだ。

 ミツバチはけむりをきらう。とくにハーブを燃やしたけむりは彼らのきらう匂いもたっぷり含まれているから効果は格別かくべつだ。

 ミツバチたちはけむりにまかれておどろき、とまどい、大事な巣を捨てて逃げ出した。

 ニーニョはそのすきのがさなかった。素早く近づくとはちに袋をかぶせ、根元をナイフで切り落として巣を袋のなかに落とした。袋の口をギュッとしめる。

 これでもうだいじょうぶ。

 ふたりは歓声かんせいをあげながら見事な戦利品を抱えて、ほら穴に戻っていった。

 「さあ、これでこれからはパンだってケーキだって食べられる。替えの服だって手に入るぞ」

 「うん、楽しみだね」

 ふたりは目を輝かせてうなずきあった。

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