一四章 奴らの仕業だ……!
それと同時にエルの父親はドスドスと音を立てて
エルの部屋のドアの前に立つ。まっすぐ伸びた背筋、堂々たる立ち姿がさすが、自ら剣をもって戦う名家の
「どうだ、エル? 少しは
ドア
「お前はまだ子供だ。
父親として最大限の
――あの
そう思ってますます腹を立てた。聞く者の腹に響く重低音の声に
「そうか。返事をする気もないか。勝手にするがいい、この
そう叫び残すと、あがってきたときに倍する大きな音を立てて
いかにもオロオロした様子で
かの
「ああ、あなた! エルの様子はどうでした⁉」
「どうもこうもないわい!」
ニールは吐き捨てながらテーブルの自分の席にどっかと座り込む。テーブルの上にはすでに
エルの席の前に並べられた
「なにを言っても返事ひとつ、しようとせん。まったく、誰に似てあんな
その言葉にアンナは
「ああ、なんということでしょう!
もし、その場にエルがいれば全身で『やめてよ!』と叫んだにちがいないことに、アンナはご先祖たちの
『娘に反抗された
「こうしてはいられませんわ。部屋に行ってわたしが話してきます」
「ならん!」
「あなた⁉」
「そんなことをすれば調子づかせるばかりだ。向こうから
「そんな! それではあんまりですわ。あんなに元気のいい、外を飛びまわるのが大好きな子をずっと部屋のなかに閉じ込めておくなんて……」
「わかっておる。あれがそんな仕打ちに耐えられないことはな。近いうちに必ず向こうから折れてくる。それまでの
ニールはそう言うとテーブルの上の小さなベルを手にとった。手慣れた様子でベルを鳴らす。
「お呼びでしょうか」
白いエプロンドレスに白いカチューシャという格好のナースメイドが現れた。
もともとは
そう考えた両親の売り込みで、エルが生まれたときに世話係として
ここにきたばかりの頃は空に浮かぶ
ニールは
「エルに
「かしこまりました」
ベテランのナースメイドは
「まて」
「なんでしょう、ご主人さま?」
「あれは、お前の作るパンケーキが好きだったな」
言われてナースメイドは
「はい。お
「特別に、焼いてもっていってやれ」
「はい」
「……山盛りだぞ」
そう
パンケーキを焼く甘い香りがキッチンから漂いはじめた。やがて、その香りは
その頃にはエルの両親もテーブルにつき、
ニールはいつも通り、
静かな
「きゃああああっ!」
叫びとともにゴロゴロと雷が鳴るような音がした。
ニールはその声がした
「どうした⁉」
叫ぶニールの前でナースメイドが文字通り転げ落ちてきた。一階の
顔面は
主人相手だというのに
「い、いません! お
「なんだと⁉」
ナースメイドの叫びにニールは叫び、アンナは
「そんなはずはあるまい! あれだけ
「でも、いないんです、お部屋のどこにも……」
その言葉に――。
アンナは今度こそ
ニールは飛ぶような勢いで
ニールは
しかし、いない。どこにもいない。娘の姿はたしかに部屋のなかのどこにもなかった。
「誰でもいい! 娘を探せ!
その叫びに――。
使用人が
――エルはこの
と言うことだった。
「バカな、そんなはずはない! あれだけ
娘が
「あなた」
どなり散らすニールにゾッとするほど静かな声がかけられた。ニールが思わず怒りを忘れ、
妻のアンナだった。
いつ気がついたのか、
「お、おお、お前か。もういいのか?」
そう声はかけたものの、アンナのその姿は夫のニールから見てさえ気味悪いほどに落ち着いたものだった。
アンナはなにかに
「あなた。これはミレシア家の
「むっ……」
言われてニールは
アンナは静かにつづけた。
「一〇歳の女の子が
妻の言葉にニールもうなずいた。浮かぶ表情は
「……たしかに。エルが
アンナは大げさな身振りで『母の
「おお、あなた! それならば
「うむ。それがよい。誰か! すぐに馬車を用意せい! ご
主人の命令を受けて使用人たちがあわてて馬車を用意するために馬小屋へと駆けていく。
その足音を聞き流しながら、ニールは地の底のうなりのような低い声でつぶやいた。
「ミレシア家の
一方、その同じ頃――。
広場をはさんで
ニーニョの
「これは
そして、
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