一一章 いやだ、いやだ! いやだ‼

 まちに帰りつくまでの間、ふたりはずっとおしゃべりをしていた。お互いになんでも話した。自分のこと、家族のこと、家のこと、友だちや仲間のこと、家での暮らしや学校での生活、街中まちなかで繰り広げてきた冒険などなど……とにかく、なんでも話した。

 なんでも話し、聞いているうちに相手に対する興味きょうみがどんどんわいてきた。相手のことが知りたくなったし、自分のことを知ってもらいたくなった。話せばはなすほどもっともっと話したくなった。

 ニーニョが心から不思議ふしぎそうに首をひねった。

 「なあ。なんでおとなたちは、あんなにいがみあってるんだろうな?」

 「知らない。理由なんて聞いたこともないし」

 「おれもだよ。とにかく『ダナ家の連中は卑劣ひれつうそつきだ』って、そればっかり。でも、お前は卑劣ひれつうそつきなんかじゃない。立派な勇者だ」

 「あんたこそ。レットウシュゾクなんかじゃない。立派な紳士しんしだわ」

 「だよな。なのに、なんでおとなたちはあんなこと言うんだ?」

 ニーニョは心の底から不思議ふしぎそうに首をひねった。

 エルはフルフルと首を左右に振った。

 「知らない。でも、どうだっていいじゃない。おとなたちの都合なんてあたしたちには関係ない。でしょ?」

 「そうだな。おれたちはもう、きょうたい分になったんだ。そのきずなを切りはなすことなんて誰にもできないさ」

 「そうよ。ニーニョ、ちかおう。おとなたちがなにを言ったって、あたしたちはきょうだい分でありつづけるって」

 「ああ、もちろんだ」

 ふたりはお互いの心にはっきりとちかいあった。もうどちらが上かなんて気にもならなかった。ふたりがふたりでいること。それだけが大切なことだった。

 ふたりは《バロアの丘》をくだり、坂道をのぼり、空に浮かぶゾディアックのまちの入り口へと戻ってきた。

 そこで見た光景にふたりは息をんだ。夜の闇に閉ざされ、光といえば月明かりと街道かいどうにポツポツと立つガスとうのかすかな光だけ。

 それ以外はまったくのやみまれ、人の姿もなく、まちすべてが静けさに包まれている……はずだった。少なくとも、普段ならそうなのだ。

 このときばかりはまるでちがった。まちのあちこちを巨大なホタルのようなあかりが動き、人の声や足音がする。

 野太のぶとい男の声だ。足音もどれも重々しく、ズシリとしている。金属のう音もかすかに聞こえた気がした。

 騎士団だ。

 まち治安ちあんを守る騎士団たちが夜のまちに繰り出し、だい捜索そうさくをしているのだ。

 「うわっ。なんだ、なんだ? 騎士団が総出そうでで歩きまわってるなんて、よっぽどのことがおきたにちがいないぞ」

 ニーニョは表情を引きしめてそう言った。事情を聞こうと騎士団に駆けよろうとした。そんなニーニョをエルがあわてて引きとめた。

 「ちょっとまって、ニーニョ!」

 ニーニョはいぶかしそうに振り返った。少しばかりイラッとした口調でたずねた。

 「なんだよ、エル? 騎士団がこんなに出張でばってるなんてただ事じゃないぞ。きっとなにか大変なことが起きたんだよ。なにが起きたのか確かめて協力しないと……」

 「いや、あの、その大変なことって……」

 「なんだよ?」

 ニーニョはイライラと腕組みしながらたずねた。

 エルはバツが悪そうに小さな声で答えた。

 「あたしたちのことじゃない?」

 「おれたち?」

 ニーニョはなんのことかわからなくて、目をパチクリさせた。

 エルは首をすくめながらニーニョに説明した。

 「う、うん。だって、ほら、あたしたち、こんな時間までいなくなってたわけだし、それも、行方ゆくえ不明ふめいだったわけで……」

 ニーニョはしばらくの間、ポカンとしていた。それでも、ようやくエルの言葉の意味を理解すると頭をかかえて叫んだ。

 「あ、ああ~!」

 ようやく、わかった。自分たちこそが、まぎれもない、このエルとニーニョのふたり組こそが、騎士団の探している『大変な事件』なのだと言うことが。

 考えてみれば当たり前だ。ふたりの子供が夜の夜中まで帰らないとなれば誰だって心配する。騎士団に捜索願いを出す。

 まして、エルとニーニョはまち二分にぶんする名家めいけ、ダナ家とミレシア家の直系ちょっけいなのだ。

 そのふたりがそろって行方ゆくえ不明ふめい。となれば、ただですむはずがない。どちらの家も配下はいかの騎士団をそう動員どういんしてさがすに決まっている。まちが夜らしくない喧騒けんそうつつまれているのも当たり前だった。

 そんなことにも気付かなかったニーニョはまったくうかつと言うしかない。もっとも、ニーニョにしてみれば、エルとふたりの帰り道があんまり楽しかったので、自分のしでかしたことがおとなたちを心配させる大問題だとは、まったく、ちっとも、かけらほども考えられなくなっていたのだけど。

 「ど、どうしよう、エル! おれたちだけでバロアの岩屋いわやに向かったなんて知られたら、こってりしぼられる!」

 ニーニョがそんなことを言いながら跳びはねるものだから、エルもすっかりあわててしまった。

 「あ、あたしだって! ううん、しかられる程度じゃない。きっと、部屋に閉じ込められて出してもらえなくなる!」

 「げえっ、それは勘弁かんべん! 一日中、狭苦せまくるしい部屋のなかなんてえられないよ!」

 「あたしだってそうよ! 今年こそは夏祭りに参加してやろうって決めてたのに……」

 「ああ、そうだ! それもあった! どうしよう、エル? なんとかごまかさないとおれたち、今年も祭りに出られないぞ!」

 「ごまかすって……どう、ごまかすのよ⁉」

 「そこをなんとか考えるんだよ! ほら、考えろ、早く、はやく!」

 「なんで、あたしに押しつけるのよ⁉」

 「お前は女だろ! こういうずるがしこいことは女の方が得意なんだ!」

 「調子のいいこと、言わないでよね!」

 「いいからほら、なにか考えろ! いま、考えろ。すぐ、考えろ。ほらほら、早くはやく。なにか考えついたか?」

 「え、ええと、それじゃあ……このままこっそり家に帰って、部屋にしのび込んで、何食なにくわぬ顔で寝てるって言うのは?」

 「バカだなあ。おれたちの部屋なんて真っ先に探したに決まってるだろ。そんなんで、ごまかせるもんか」

 「じゃあ、どうしろって言うのよ⁉」

 「それを聞いてるんだろ、バカ!」

 「バカとはなによ、バカとは⁉」

 「いいから! とにかく、なにかもっとましなことを考えろ!」

 「いちいちさわがないでよ! 見つかっちゃう」

 エルは叫んだけど、もう遅かった。バタバタと人の一団が駆けつけてくる音がした。ふたりのどなりあう声を聞きつけてやってきたにちがいない。

 「いたぞ、こっちだ!」

 するどいその声に、エルは飛びあがった。ランプを手に必死の形相で駆けてくる赤い衣服いふくをまとった騎士の一団が目に入った。ダナ家配下はいか赤枝あかえだ騎士団きしだんだ。

 「やべっ! 捕まっちまうぞ」

 「逃げよう、ニーニョ! いま捕まったらお尻ペンペンじゃすまない!」

 「あ、ああ、そうだな……」

 エルの悲鳴ひめいにニーニョには反射的に自分の尻を押さえた。

 ふたりは回れ右して走り出した。ところが――。

 一日中歩きまわったばかりとあって、さしもの元気者のふたりもいつもの機敏きびんさを発揮はっきできない。たちまち追いつかれ、取り囲まれてしまった。

 「エルおじょうさま!」

 「ご無事でしたか、ああ、よかった」

 赤枝あかえだ騎士団きしだんはたちまちエルをかこんだ。その人の波に押し出されてニーニョはたちまちエルから引きはなされてしまった。

 いくら元気いっぱいでもしょせんは一〇歳の子供。屈強くっきょうな騎士たちに力で対抗たいこうできるはずもなかった。

 赤枝あかえだ騎士きしたちはニーニョなど存在しないかのようにエルをかこみ、口々に言った。

 「まったく、心配しましたぞ。元気なのはいいですが、こんな時間まで出歩くというのは感心かんしんしませんな」

 「まったくです。ご両親にむやみに心配をかけてはいけません」

 「お母上ははうえなど、それはそれは大変なご心配の仕方でしたぞ。さあ、早く戻りましょう。一刻いっこくも早くご安心させてあげなければ」

 口々に言う騎士たちを前にエルは口をはさむいとまもない。突然とつぜん、まわりに現われた人の壁にとまどい、口をパクパクさせるばかりだ。騎士たちはかまわずエルの手をとり、連れ戻そうとする。

 そのとき、ニーニョが小さな体で騎士たちのかべってはいった。

 「おい、ちょっとまてよ!」

 「うん? なんだお前は?」

 騎士のひとりが胡散うさんくさそうな目でニーニョを見た。とたんに露骨ろこつ嫌悪けんおじょうが浮かんだ。

 「なんだ、お前。ミレシア家の小僧こぞうだな。そうか、きさまがおじょうさまをたぶらかし、こんな時間まで連れ歩いていたのか」

 「たぶらかしただと⁉」

 言葉の意味はよくわからなかったけど、ひどい侮辱ぶじょくを受けたということだけはわかった。だから、ニーニョは怒った。相手が屈強くっきょうの騎士団だろうと、デイモンの群れだろうと、ミレシア家の男子たるもの、侮辱ぶじょくされてそのまま引きさがるわけにはいかない!

 ニーニョはまゆをつりあげ、爪先つまさきちになり、はるかに背の高い騎士をにらみあげた。にらまれた騎士は『ふん』とはなを鳴らした。

 「どうせ、上の連中に言われておじょうさまをさらう算段さんだんでもしていたんだろう。子供を使うとは劣等れっとう種族しゅぞくのミレシア家らしい姑息こそく手段しゅだんだ」

 「ちがう!」

 きぬくような否定ひていさけびがひびいた。エルだった。エルが必死ひっし形相ぎょうそうで大切な友だちを弁護べんごしたのだ。

 「ニーニョは、そんなことしたんじゃない! あたしたちはただ……!」

 その叫びに騎士は大げさな身振りを交え、『なげかわしい』とばかりに顔をくもらせた。

 「おお、おじょうさまはおやさしいことですな。劣等れっとう種族しゅぞくのミレシア家などをかばわれるとは。ですが、ぎたるはおよばざるがごとしと申しますぞ。慈愛じあいの心はそれにふさわしい相手に向けられてこそ意味をもつもの。その価値のないものに向けられてはに乗せるだけ。ミレシア家のようなたい劣等れっとう種族しゅぞくにはきびしくせっし、仕付しつけてやることこそ、本人たちのためなのです」

 「ニーニョはレットウシュゾクなんかじゃないわ! 取り消して!」

 エルはまゆをつりあげて、つめよった。騎士は呆気あっけにとられた表情になった。

 「どうなさったのです、おじょうさま? おじょうさま自身、いつも言われていたではありませんか。『ミレシア家のレットウシュゾクなんかに負けないんだから』と」

 「それは……」

 エルは一瞬いっしゅん、言葉につまった。けれど、すぐに言い返した。

 「それは……それは、ミレシア家の人たちのことを知らなかったからよ! ミレシア家の人たちはレットウシュゾクなんかじゃない! 少なくとも、ニーニョは立派な紳士しんしだったわ!」

 「おお、なんとなげかわしい。ダナ家の正当の一員たるお方がよりによってミレシア家のものをかばうとは。よほどたちの悪い詐術さじゅつにかけられてしまったようですな。このことはご両親はもちろん、ご当主とうしゅにもご報告ほうこくせねばなりますまい。さあ、とにかく帰りますぞ、おじょうさま。屋敷やしきに帰れば気も落ちつかれることでしょう」

 騎士は言いながらエルの手をひっぱり、連れ戻そうとする。エルは身体からだ全体で抵抗ていこうした。

 「いや! はなしてよ、あんたたちとなんか行かないんだから!」

 両足をふんばり、騎士の手首をつかんでひきはがそうとする。でも、一〇歳の女の子の力で屈強くっきょうな騎士に対抗たいこうできるはずがない。どんなにふんばっても騎士の手はびくともしない。ズルズルと引っ張られていくだけだ。

 エルはそれでも抵抗ていこうした。力を振りしぼり、叫んだ。大切なきょうだい分であるニーニョを悪く言う連中となんか一緒に帰ってたまるもんか!

 騎士はかまわずにエルを引っ張っていく。エルの叫び声が夜のまちに満ちた。

 「おい、よせよ!」

 たまりかねてニーニョが叫んだ。騎士の腕に飛びついた。

 「いやがってるだろ! エルは野良犬のらいぬじゃないぞ、乱暴らんぼうあつかったりするな」

 「だまれ、小僧こぞう! ミレシア家の劣等れっとう種族しゅぞくえあるダナの一族を呼び捨てにするな」

 騎士は腕をふるった。彼も騎士。いくら相手がっくきミレシア家の一員とはいえ、こんな子供相手に乱暴を振るう気はなかった。ただ、振り払おうとしただけだった。

 でも、なにしろ、体重がちがう。筋力きんりょくがちがう。騎士は軽く振り払っただけのつもりだったけど、ニーニョはたちまち吹っ飛んでしまった。ちゅうを飛び、地面に激突げきとつした。

 「ニーニョ!」

 エルは叫んだ。必死に騎士の手を振りはらい、駆けつけようとする。騎士もさすがに気まずそうな表情になった。それでもしっかりとつかんだエルの腕をはなそうとはしなかった。

 「……お前たち、その小僧こぞうを家まで連れ帰ってやれ」

 そう他の騎士に指示したのはせめてもの騎士としての心遣こころづかいだった。

 「さあ、行きますぞ、おじょうさま。これ以上、ミレシア家の劣等れっとう種族しゅぞくなどにかまわれてはなりません」

 「はなしてよ! ニーニョ、ニーニョ!」

 必死ひっし抵抗ていこうするエルを騎士は無理やり引っ張っていく。そこへ、もうひとつの足音が駆け付けてきた。

 「っちゃま! ニーニョっちゃま!」

 ミレシア家につかえる白枝しろえだ騎士団きしだんだった。

 ニーニョをかこ赤枝あかえだ騎士きしたちにぶつかるようにして引きはがし、倒れたままのニーニョを助け起こす。

 怪我けがのないことを確認すると、赤枝あかえだ騎士きしとその騎士に捕まっている女の子相手に敵意てきいむき出しの視線を向けた。

 「きさまらがニーニョっちゃまに危害きがいを加えたのか⁉」

 「ほざくな、腰抜こしぬけの白服どもめが! こともあろうにダナ家のおじょうさまをたぶらかした不埒ふらち小僧こぞうに、その程度ていどですませてやったのだ。ありがたく思え」

 「なんだと⁉ そっちの小娘こむすめこそよからぬことをたくらんでいたのだろう!」

 「無礼ぶれいもうすと許さんぞ! ミレシア家の劣等れっとう種族しゅぞくつかえるイヌどもが!」

 「卑劣ひれつうそつきのダナ家に尻尾しっぽを振るきさまらに言われる筋合すじあいはない!」

 「なんだと⁉」

 「なんだ!」

 騎士たちはエルとニーニョそっちのけでののしり合いをはじめた。エルとニーニョはあわてて口をはさんだ。

 「ちょっとまってよ! 勝手かってに話を進めないで!」

 「そうだ! おれたちはたぶらかしたとかなんとか、そんなことをしたわけじゃない! ただ、度胸どきょうだめしのために……」

 ふたりは必死に叫んだが騎士たちは聞く耳をもたない。叫べばさけぶほど後ろに追いやられ、のけものにされてしまう。

 騎士たちのにらみ合いははげしさをしていく。むき出しの敵意てきい憎悪ぞうおがぶつかり合い、空気が帯電たいでんしていく。そのピリピリした空気がさらにお互いのお互いへの憎悪ぞうおを深めていく。

 すでに半数以上の騎士が手にしたやりかまえ、相手に向けていた。その目はまるで一〇〇年も探した親のかたきを前にしたかのように血走ちばしっている。

 いつ殺し合いがはじまってもおかしくない。

 そんな雰囲気ふんいきになっていた。

 ――どうして?

 その敵意てきい憎悪ぞうおのぶつかり合いに恐怖きょうふを感じながら、エルは思った。

 ――どうして、ここまでにくみ合うの? どうして?

 わからなかった。

 ちっともわからなかった。

 たしかに自分だって、いままでずっとミレシア家を悪く思っていた。ケンカもしてきた。でも、それは単なる子供同士の意地の張り合い。本気で相手を傷つけようなんて思ったことはない。ましてや、殺そうなんて……。

 それなのに、騎士たちは本気で相手をにくんでいる。殺そうとしている。

 ――殺そうとしている。

 その思いにエルはブルッと身をふるわせた。

 もちろん、いままで人が殺されるところなんて見たことはない。いままでにたくさん読んだ騎士物語のなかでは何度となく人が斬られるシーンを見たし、空想のなかで伝説の勇者や英雄になりきって空想の敵を切り捨てたこともある。

 でも、現実に人が人に殺されるところなんて見たことはない。見たくもないその光景を見せられるのかも知れない。それも、ひとりやふたりではない。何十人もの騎士が入り乱れた血みどろの殺し合いを……。

 その予感にエルは凍りついた。胃袋がひっくり返りそうなを感じた。

 ――どうして? どうしてここまでにくみ合うの? みんな、おとななのに。子供じゃないのに……。

 エルにはまるでわからなかった。

 「ふん、まあいい」

 赤枝あかえだ騎士団きしだん隊長たいちょうがふいに言った。顔をそむけ、視線をそらし、てた。まるで、いきなり、白枝しろえだ騎士団きしだんに対する興味きょうみがなくなったかのように。

 「われらのいまの任務にんむはあくまでもエルおじょうさまを保護ほごすることだ。白服どもを斬るのは次の任務にんむの楽しみということにしておいてやる」

 「ふん、こちらの台詞せりふだ。今宵こよいはニーニョっちゃまを保護ほごしたてまつるという聖なる任務にんむのさなか。ダナ家のイヌどもの血で剣をけがすなどあってはならぬことだからな」

 「ふん!」

 「ふん!」

 騎士たちは思いきりはなを鳴らしあった。これが子供ならお互い『あかんべー』をしてわかれるところだ。

 どうやら、殺し合いはおきずにすんだらしい。そのことにホッとしたのもつかの間、エルは騎士団にしっかりと腕をつかまれ、無理やり引きずられていった。必死に振り返って後ろを見ると、ニーニョもやはり、白枝しろえだ騎士きしに腕をつかまれ、無理やり引っ張られていくところだった。

 それでもニーニョは必死に抵抗ていこうしていた。引きずられながらもなんとか騎士の手を引きはがそうとしている。

 エルは身をひねった。自由な方の手をニーニョに伸ばした。必死に叫んだ。

 「ニーニョ!」

 ニーニョも振り返ってエルを見た。エルに負けない必死な声で叫んだ。

 「エル!」

 ふたりは懸命けんめいに腕を伸ばし、少しでも近づこうとした。そんなふたりを赤と白、ふたつの騎士団はかまうことなくひきずっていった。

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