七章 ウソつきはそっちだ!

 ニーニョとその仲間たちが駈けてきた。すぐ目の前で立ちどまり、ニーニョを中心に横一列に並ぶ。エルたちもそれに対抗してエルを中心に横一列に並んだ。その態勢たいせいのまま、にらみ合う。

 まるで戦争前の軍勢ぐんぜいのにらみ合いのような緊張きんちょうが走った。数はどちらも六人ずつ。年齢もかわらない。浮かぶ表情はひとつ残らず『なにかぬかしたらぶちのめしてやる!』と叫んでいる。

 最初に声をあげたのはニーニョだった。

 「ふん。またサボりかよ、エル。そんなことじゃろくなおとなになれないぞ」

 「そう言うあんたこそ、こんなところでなにしてるのよ。先生に叱られてママのオッパイでも吸いに帰るの?」

 「ふん。言ってろよ、卑劣ひれつうそつきなダナ家の小娘こむすめが。おれはお前とはちがうんだ。こうして日々、冒険を繰り返すのも、いつか魔王エーバントニアと一緒に戦い、邪眼じゃがんのバロアにとどめをさしてやるためさ。なんたって、わがミレシア家は、かつて魔王エーバントニアと一緒に戦いドルイム・ナ・テインの地を救った聖なる一族なんだからな」

 「うそつき!」

 エルは思いきり、叫んだ。その声にニーニョは顔を真っ赤にして怒鳴り返した。

 「誰がうそつきだ⁉」

 「魔王エーバントニアと一緒に戦ったのはダナ家の始祖しそ、聖女エスネよ。ミレシア家なんて関係ないわ!」

 「うそつきはそっちだろ! ミレシア家の始祖しそ、勇者マッキンファーレイこそ、魔王エーバントニアと共に戦い、ドルイム・ナ・テインを救った英雄なんだ! 父さんや他のおとなたちから何度もそう聞いたんだ」

 「なら、そのおとなたちがうそをついてるのよ。もしかしたら、うそだっていうこともわかってないかもね。なにしろ、ミレシア家はどうしようもないレットウシュゾクだから」

 エルはあざけるように言った。でも、『レットウシュゾク』なんていう言葉の意味がわかって言っているわけではない。ただ、父親がよく『ミレシア家の劣等れっとう種族しゅぞくめが!』と怒っているのを見ていたのでそう言っただけだ。

 「レットウシュゾクだと⁉」

 言われてニーニョは頭から湯気ゆげを吹き出して叫んだ。すでに真っ赤になっていた顔を、耳まで赤くしている。

 「レットウシュゾクって、なんのことだ⁉」

 「知らないわよ! でも、お父さまがいつもそう言ってるわ!」

 と、エル。悪びれるどころかいばっている。

 「卑劣ひれつうそつきなダナ家の連中にそんなこと言われる筋合すじあいいはないぞ! 取り消せ!」

 「誰が卑劣ひれつうそつきよ!」

 「父さんがよく言ってるぞ。『ダナ家の連中は卑劣ひれつうそつきで、どうしようもない連中ばかりだ』ってな」

 「あんたたちレットウシュゾクがそんなことを言うなんて許さないわよ! 取り消しなさい!」

 「ふん。事実じゃないか。魔王エーバントニアと一緒に戦ったのはミレシア家の始祖しそ、マッキンファーレイなんだ。なのに、自分たちこそ救世主きゅうせいしゅ子孫しそんだなんて言い張ってるんだからな」

 「うそをついてるのは、あんたたちレットウシュゾクでしょ!」

 「卑劣ひれつうそつき!」

 「レットウシュゾク!」

 言い合うほどに相手に対する怒りと敵意は増していき、どんどんエスカレートしていく。敵意がふたつの目から放射ほうしゃされ、空中でぶつかりあう。まるで、ふたりの目が伝説のバロアの邪眼じゃがんになったようだった。

 リーダーふたりの激しい言い争いに他の子供たちも興奮こうふんしてきた。

 「うそつき!」

 「やっちまえ!」

 と、拳を振りあげて叫び合う。なかにはすでに石をひろい、投げつけてやろうとかまえている子供もいた。

 「ふん、まあいいさ」

 ひとしきり叫び合ったあと、ニーニョがふいにそう言った。

 急に態度がかわったのでエルはまゆをひそめた。さぐるような目でたずねた。

 「なによ、急に。自分のまちがいを認めたわけ?」

 まさか、と、ニーニョは嘲笑あざわらった。

 「こんな言い合いをしてたって意味はないってことさ。もっとはっきりと決着けっちゃくをつける方法があるじゃないか」

 「決着けっちゃく?」

 「そうさ」

 と、ニーニョはまちの南、下界げかいへとつづく坂道のほうを指差した。

 「《バロアの丘》に行くんだ」

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