五章 《天狼の瞳》
エルたちは
赤い服を着た騎士が
「とまれ!」
騎士の姿を認めたエルが小さく、鋭く合図する。五人の仲間は
「この先に
「あちゃー、ほんとだ」
「
「見つかったら連れ帰されちゃうわ。そんなのいやよ」
「おい、エル。
不用意なその言葉にエルは怒りを爆発させた。両手を腰に当て、目をつりあげて発言者につめよった。
「なに言ってんの! ミレシア家に
その勢いにさしもの男の子もタジタジだ。
「わ、わかったよ、そんなに怒らなくってもいいだろ」
「でも、エル、どうする? このまま進んだら見つかっちゃう」
「そうね」
エルはほっそりした指を
「よし、こうしよう」
と、みんなに説明する。仲間たちも大喜びで
エルたちは回れ右をしてもときた方角に走りだした。マンホールを見付けるとみんなで
エルの頭のなかでは自分はもうレジスタンスの一員だった。情け
誰にも見つかっちゃいけない。
この貴重な食料を取り上げられるわけにはいかない。
これは
後ろから追いかけてくる足音が――エルの頭のなかでは――聞こえてくる。
追いつかれるもんか。ここはあたしの庭なんだ。
エルは
そこは計算通り、中央広場の近くだった。エルと五人の仲間たちは次々とマンホールから姿を出した。まるで、地下に住む
エルたちはマンホールの
「あ~、やっぱり、外の空気はおいしい!」
エルは思いきり伸びをしながら言った。
下水のなかを敵に追われながら逃げるスリルもいいけれど、お日様の下で吸う空気はやっぱり
下水のなかをさんざん走りまわったのでエルたちは
砂糖とミルクのたっぷり入った甘いお茶で残ったフィッシュ&チップスを胃のなかに流し込む。甘くて暖かいものが胃のなかに入ったおかげでみんな、人心地ついた。そろって満足の
平日の昼間とあって広場に人影はあまりなかった。小さな子供を連れた母親や
広場の向こうに今度は
ミレシア家に仕える
そのため、西側は
もっとも、
こんな
騎士の名誉とおとなの
右に左に、飛びはねるように自在に駆けまわる子供たちについて行けずに
にっくき
その様子はまさに
広場の向こうには黄金に輝く
三〇〇年前、ゾディアックの
「《
と、仲間のひとりが言った。この小さなランプはそう呼ばれていた。
「おれ、一度でいいからあのランプの火を消してみたいんだよなあ」
「なに言ってるの! だめよ、そんなことしちゃ。《
「そうだよ。いくらなんでもやっちゃいけないことはある。伝説ではあの火が消えるとき、ゾディアックの
「だけどさあ、三〇〇年も燃やされつづけてきたんだぜ? それが消えたらどんな騒ぎになるか想像しただけでワクワクしないか?」
「……うっ。それはちょっとするかも」
もともとが冒険好き、イタズラ好きの子供たち。そう言われると心が動く。それぞれ後ろめたそうな、でも、なにやら期待を込めたような目でお互いの顔を見る。
「なあ、エル。お前だってそう思うだろう?」
「たしかにね」
と、エル。たしかに、それぐらいのことをしでかしておとなたちの鼻をあかしてやるのもおもしろそう。
「でも、だめ。あたしたちエル冒険隊はゾディアックを守るためにいるのよ。そのゾディアックの
エルはキッパリとそう言い切った。リーダーがそう言うのでは仕方がない。仲間たちは残念なような、ホッとしたような表情を浮かべた。
子供たちは広場を先に進んだ。目の前に二機の人力飛行機が見えてきた。一機は真っ赤、一機は真っ白。一目見てダナ家のものとミレシア家のものとわかるカラーリングが
仲間のひとりが目を輝かせた。
「おおっー、もうできてたんだ。今年の新型」
「楽しみよね。一年に一度の大勝負! 今年はこっちの勝ちよね、エル?」
「もちろんよ!」
言われてエルは胸を張った。その顔付きが
「ジェニー
それは年に一度、開かれる真夏の一大イベント。ダナ家とミレシア家がそれぞれ人力飛行機を作りあげ、一族のものから乗り手を選び、ゾディアックの
勝ったほうの飛行機は人々の
もともとは武器をもっての争いを防ぐために
『平和なお祭り』になんてなるはずもなく、応援合戦がエスカレートして、殴るわ、蹴るわの大乱闘になるのは毎年のこと。怪我人はもちろん、死人さえひとりやふたりは出るのが当たり前。
あまりの激しさに両家の本格的な争いに発展しないよう、毎年この時期には王都から騎士団が駆け付け、
エルは『子供には危ないから』ということで広場のお祭りに参加することは許されていない。部屋の窓から
でも、今年はちがう。何がなんでも参加するつもりだ。許してもらえないならこっそり抜け出す。そのための準備を一年前からつづけてきた。
――あたしだってもう一〇歳を過ぎたんだから。立派なレディーよ。子供扱いされてお祭りから
もちろん、いつかは自分が飛行機の乗り手となって、ミレシア家をコテンパンにしてやるつもりだ。
……ミレシア家の白い飛行機をぶっちぎって
なかから現われたのはうら若き美しい女性、ダナ家のエル。ミレシア家の挑戦をことごとく
その光景を想像してエルは身を
「そうこなくっちゃ! へへっー、それじゃ前祝いに一発……」
と、手近にあった小石をつかみあげ、投げつけようとした。
「だめ!」
エルは鋭く叫んだ。腕をのばし、小石をひったくる。
「勝負がはじまるまでは指一本、ふれちゃだめ! そんなことしたら、ミレシア家の連中のことだもの。『自分たちが負けたのはそのせいだ』とか言い訳するに決まってるわ。言い訳できないよう、堂々と勝負して負かしてやるの」
「わ、わかってるよ。ちょっとした冗談だよ。そんなに怒ることないだろ」
と、あまりの
「そう。わかればいいの。あたしたちダナ家はミレシア家とはちがうんだから。あくまで堂々と戦うの。いいわね?」
「おおっ!」
仲間たちは
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