ガンマンさんパーティーを抜けたい

蓮太郎

「俺、パーティー抜けたい」


カラァン…………


 俺たちの拠点の一室、食事している時に俺が発見した言葉で3人のうちの誰かが持っていたスプーンが床に落ちた。


 まず自己紹介をしよう。俺はミーム、職業はガンマンだ。


 ガンマンと言ってもなじみがないかもしれないが、成人したてで4人で冒険に出かけた際、『弾薬と火薬の尽きない銃』という道具を入手したことがきっかけで発現した職業だ。


 まず職業というのは、その者の才能を引き出すためのもので、千差万別と言われるほど種類があり外れなど無いと言われている。


 その中でも俺は今のところ聞いたことがないガンマンであるが、この銃と呼ばれる飛び道具との相性が良く百発百中、全弾急所に当てられるくらいの腕前に短期間でなることができた。


 聞くだけで優秀だと思うだろう?だが俺はこのままではダメだと思っている。


 そよ原因となるのが先程の3人である。


 パーティはガンマンである俺と僧侶という仲間を回復させる職業を持った後衛。手先が器用で探索に優れている斥候に前線で強い腕力で敵を切り捨てていく戦士の4人だ。


 一見、何の変哲もないバランスの取れたパーティに見えるだろう。俺以外が脳筋ということを除けば。


 俺もそれなりに鍛えているはいるのだが、他の3人は俺よりもはるかに筋力が高い。


 一番非力そうに見える僧侶でさえ俺より何倍も力があって、わざわざ前線で戦士に交じってメイスを振るくらい血気盛んである。


 そして何よりも全員俺よりも身長が大きい。おかしいな、あいつらだけ妙にデカいのはなんでなんだ?

 

 なんやかんやで全員その腕力に任せて突撃してから敵をぶっ飛ばすばかりで毎回俺が置いてけぼりになっている。


 流石に俺はこのパーティいらないと思っても仕方ないだろ!


「か、考え直してくれないか?君がいるからこそ後ろを任せられるんだ」


「後ろに剣ブン投げて敵を殲滅してから短刀で敵を切り裂くアンタが言うか?」


 震える声で戦士が言うが、俺は今までやってきたことを上げてばっさり切り捨てる。


「そもそも後ろを見ずに剣を投げて仕留められるってなんだよ。弓矢をはたき落とすのは納得できるけど剣を投げてまで遠くの敵を切り捨てるのはバーサーカーが過ぎると思う」


「はうう…………」


 仕草は女の子らしくても戦場では笑いながら敵を叩き切ってる奴だ、惑わされんぞ。


「まあまあ、ここはひとつ穏便に考え直す時間を頂ければ」


「お前も何で後衛職で鉄球付きのメイス振り回してるんだよ。周りのサポートしてくれよ、だからいつまで経っても治療魔法が上達しないんだぞ」


「がーん…………」


 擬音を使うな、みんな怪我ばっかりするのに血が止まる程度にしか治せなくてどうするんだよ。


「ここは仕方ない。私の指テクで何とか抑え込む」


「何が指テクだ、ナンパが一度も成功したことない癖に。ワイヤーで首を引きちぎれる指で何しようって話だよ」


「ぐすん、なんで私だけ二つも…………」


 斥候なんだからワイヤーを駆使して罠を張るのは分かるんだが、罠用のワイヤーを敵の首に巻いてから首を引きちぎるのはどうかと思う。


 あと女を積極的にナンパするのが悪い。そして毎回恥をかいてもナンパし続けるのが悪い。


 とはいえだ、流石にいきなり抜けるのはまずい。殆どどころか全て俺の勝手な言い分だし代わりの人員は必要だ。


 本当に前衛に特化しすぎて後衛が居ないのが致命的すぎる。


 全員が突っ込んでしまうのが一番の問題だが、背後を確実に守れる人勢が必要だ。


 特に、遠距離攻撃が出来る人材が欲しい。俺には劣るだろうが彼女達には必要だ。


 いくら何でも前に出過ぎるこいつらには必要なんだよ!


「とにかく、俺の代わりに後衛になりそうな人員を探す。ここに居ても俺は強くなれないし、後衛として職務を全うできないんだ」


 話はこれで終わりと言わんばかりに俺は席を立った。


 自分の出世欲もあるが彼女達の為だ。殆ど突っ立てるだけで給料が入ってくるのは違う。


 それも他のみんなが命の危険にあるというのに、何もしないのも癪なんだ。


 背後に皆の視線を感じながら、俺は足早にその場を去った。





























「どうしよう、変なこと言い出した」


「責任感はこの中で誰よりも強いから、私達の行動が裏目に出てしまったか…………」


「分かってはいるのですけれど、どうしても、ねぇ?」


 幼馴染に残された3人は同時にため息をついた。


 ミームと幼馴染でそこそこの期間共に戦ってきた。お互いに命を預け合い、迫りくる怪物を倒してきたものだ。


 それがこんな形で亀裂が入ってしまうなんて、悲しむことしかできない、


 無論、パーティーを離れてもらう訳にはいかない。


「どうしましょう、説得が効いてくれたらいいのですが」


「…………そもそも当人に自覚・・がないのが問題」


「そうだな、それもそうだが…………」


 3人が暗黙の了解と言わんばかりに間を置いて、そして口にした。


「「「自分が女の子になったことに気づけないのに、目を離せるわけが無い」」」


 そう、ミームは少し前までは男だった。


 しかし、とある悪魔との戦いで彼は彼女・・になってしまった。


 3人が重傷を負い、かばうために一騎打ちの契約を悪魔とかわし、彼女達を安全な街まで戻してから一度行方をくらました。


 そして、戦いが終わったらしき跡地にミームが横たわっていた。


 女の子になって・・・・・・・


「恐らく、悪魔との契約で女の子になったのでしょうけれど、本人が覚えていないとなると内容が分かりません」


「大悪魔との契約で性別と一部の記憶がなくなっただけマシ?」


「だけどよぉ、他に何か契約で仕込まれてないか確認できないのか?」


「口調が乱れてますよ。ええ、教会総動員しても分かりませんでしたわ。こっそり教皇様にも来ていただきましたのに…………」


「それに、何度言っても自分が女という事を認識できていない」


「一緒にお風呂に入ってもち〇ち〇がついてると言い張りましたものね」


 元々女よりの顔であり胸が全く無いため外見上は分からないが、性別が変わっているのに認識できない異常事態。


 明らかに大悪魔との契約でこのようなことになったのだろう。


 そう予測しか立てられず、僧侶が伝手と大悪魔の情報を餌として偉い人(彼女の予想よりも遥かに位の高い人が来たが)に調べてもらっても分からない。


 こうなってはただ見守るしかない。何か起きた時のために備えて。


「だからといって、いつまでも男のままじゃないんですよぉ~」


「女なのに簡単に脱ごうとするし、どんな春画になるんだ?」


「それなら最初からわからせるべき。やはり、私の指テクで」


「その指、いりますか?」


「ごめんなさい」


 斥候は僧侶の背後に死神を見た。戯言をそれ以上口にすると指を全て切り落とすと言わんばかりの死神の眼光にちびりかけた。


 それはともかく、彼女達の問題は全く解決していない。


「「「どうやって残留してもらうか説得しよう…………」」」


 しばらくの間、3人は頭を抱える羽目になる。

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