推理

「と、まあここまでが、今のところわかってることなんだけどさ」


 昼下がりのファミリーレストラン。目の前に座った友人──ハルキ──は難しそうな顔で腕を組んでいた。

 近くのテーブルでは高校生だろうか、制服の集団が大きな笑い声を立てている。

 俺はしばらく黙ってハルキのリアクションを待ったが、ついに沈黙に耐えかねて口を開いた。

「どう思う?」

「いや、どう思うって」ハルキは組んだ腕を解いて頭を掻いた。「何か、気持ちワリぃ話だな、って」

「そうじゃなくてさ、こう、なんつーか、お前の推理を聞きたいのよ」

 ハルキは俺の親友で、別にオカルトに詳しいというわけではないが、こんなおかしな話をするとしたらこいつ以外に考えられなかった。

「推理ぃ?」

 眉をひそめるハルキへ、俺はスマートフォンの画面──『takuya9563』のコメントが書かれたスクリーンショットを表示させている──を見せながら言った。

「そう、推理」

「いや何で俺が?」

「これくらい良いだろ? 俺、まだカリンとお前が付き合い出したの根に持ってってからな」

「それは……ああ、もう、しょうがねえなあ」

「俺はさ、これは『神津拓弥』から『ルカ』への呪いだと思うんだけど、お前はどう思う?」

「……うーん、まあ、そうとしか見えないわな」

「だよな!」

「……で?」

「でっ、て?」

「いや、これ以上、何か?」

「何だよ、ノリワリぃなあ」

「そういわれてもさあ、推理つってもこれ以上はわからなくない? 『神津拓弥』の名前で検索しても、これだって個人情報も出てこなかったんだろ?」

「……まあ、それはそうだけどさ」

「あと何か調べるとしたら……『ルカ』の正体とか?」

「それだ!」

 俺が指をパチンと鳴らすと、ハルキは「しまった」という表情をした。

「『タクヤ』の方で頭いっぱいだったけど、確かに、ここまでヘイトくらってる『ルカ』が誰か気になるよな」

「でもなあ、そんな珍しい名前ってわけでもないし、名前から特定するのは厳しいよな」

「だよなあ……」

 氷が溶けて薄まったジンジャエールを音を立てて吸う。ハルキは自分のスマホで何か調べているようだ。


「うーん……あ、なあ『ruka9563』のアカウントのSNSってどれ?」

「え? ああ、今共有するわ」

 俺はハルキに『ruka9563』のアカウントを共有した。炎の絵文字のコメントが付いた画像が大量にアップされているアカウントだ。

「……」

 ハルキは無言で画像を見ているようだ。指の動きから、過去の画像に遡って見ているのがわかる。

「何かあった?」

「いや……ちょっと待って……」


「ああ、やば、ちょっと見つけちゃったかも」

 しばらく無言でスマートフォンを操作していたハルキが口を開いた。

「え? なになに? 何か見つけたの?」

「うん、ほら、これ見て」

 そう言ってハルキは自分のスマートフォンの画面を俺の方へ向けた。

「……ブログ?」

「うん。たぶんこれ『ルカ』のブログじゃないかと思うんだよね」

「え? え? なんでわかるん?」

「いや、さ。あの『ruka9563』のアカウントあるじゃん?」

「うん」

「あれの一番古い画像見た?」

「一番古い画像?」

 俺は慌てて自分のスマートフォンを手に取り、ハルキの言う画像を探して確認した。それは他の画像同様、軽くウェーブした長い黒髪が特徴的な女性のイラストだった。

「これが?」

「よく見てみろよ。これだけ他のと違って、AI生成じゃないっぽいだろ?」

 言われてみれば……手描きのイラストのように見える。

「それが?」

「この画像で、画像検索してみたんよ」

「ああ! なるほど!」

「そしたらこのブログ見つけたんよね。ほら、何かポエムと一緒にこの画像が毎回添付されてるんだよ」

 なるほど、それは思いつかなかった。やはりハルキに相談してみて正解だった。

「今URL送るから、ちょっとお前も見てみろよ」


 俺達はそれぞれのスマートフォンを手に、ブログの記事を見てみることにした。

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