「ちーちゃん、どうしよう」

「ん?……吐きそう?トイレについて行こうか?」

「違うの」

「……ん?」

「私が空手してたこと、津田くん知ってるみたい」

「そうなの?」

「さっき来る途中に、『先輩の上段蹴りには遠く及ばないっすけどね』って」

「小さい頃から彼もやってるんだから、知っててもおかしくないんじゃない?」

「……」


 そうか。

 そうだよね。

 違う道場だとしても、一つしか年が違わないし、優勝経験もあるから名前を憶えられていてもおかしくない。


 えっ、じゃあ何?

 彼が私に声をかけて来たのって、空手で結構有名だったから?

 え、そうなの?!


 雫は全小と言われる『全日本少年少女空手道選手権大会』で何度も優勝をしている。

 中学になってからは銃剣道に切り替え、空手からは引退したが、ウェブサイトを見れば過去の入賞者の名前なども閲覧できる。


 見覚えのあった顔だったからだ。

 体格が大きく、敵なしと言われるほど結構強かったからだ。


 やっていた時は楽しくて、ただ単に夢中になっていたけれど。

 それがこんな風に弊害を及ぼすだなんて、考えもしなかった。


「お待たせ~。天野先輩はアイスティーっすよね」


 頼んだハンバーガーのセットが目の前に置かれる。

 当たり前だが、男子二人は1セットでは足りないようで、単品でハンバーガーを追加したのだろう。

 トレイの上に幾つものハンバーガーの包みが乗っている。


「さすが、空手男子!凄い量だね」


 思わず、ちとせの声が漏れた。


「これでも、部員の中では小食な方っすよ」

「そうなの?!」


 朋希の言葉にちとせの目が飛び出しそうなくらい大きくなった。


「同じ男の子でも、理系と体育会系だとやっぱり違うんだね」


 自分の彼氏と彼らを比べたのだろう。

 気持ちいいほどの食べっぷりにつられ、ちとせも大口で食べ始めた。


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