練習試合が無事に終わり、雫とちとせ、虎太郎と朋希で駅前のファストフード店へと向かっていると、思わぬ言葉が返って来た。


 ちとせと咲良は中学部から一緒だから、雫が格闘技を幼い頃からしていたのは知っている。

 中学部から内部進学して来た子たちなら知っているかもしれないが、津田くんは高校から白修館に来たと言っていたのに。


 何故、雫が空手をしていたことがバレたのだろうか?


 動転する頭で必死に返す言葉を探すが、適当な言葉が見つからない。


 バクバクと跳ねる心臓。

 彼の試合を見た時よりも激しくて、自分の鼓動で体が揺れているんじゃないかと思えるほどだ。


「先輩?」

「……ごめん、熱中症かな……ちょっとクラクラする」

「大丈夫っすか?早いとこ、涼しいとこ行きましょ。ってか、担いでいいなら俺が連れて行くっすけど」

「……大丈夫っ、自分で歩けるよ」


 アスファルトの照り返しで顔が火照ってるのか。

 握られている右手が恥ずかしくて赤面しているのか。

 ううん、答えは明白だ。


 隠したい過去が彼にバレていることにどう返していいのか分からず、今にも涙が出そう。


「そう言えば、『プリンセスの扉』に新キャラ出ましたね」

「……ん」


 アラブの石油王みたいな新キャラ。

 一夫多妻制のお国柄というのもあって、常に女の影をチラつかせている王子。

 けれど、超絶美形なうえ超お金持ちという王子だから、攻略しがいがあるのも事実。


 だけど、今はそんなことはどーでもいい。

 彼の脳内から、自分の過去を全て消去したくて動悸が激しい。


 混雑する店内を進み、一先ず席は確保できた。


 オーダーを男子組に任せ、雫たちはテーブルで待つことに。


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