「えっ、何今の速さ……」

「シュシュッって蹴りが二回繰り出されてなかった?……超速くて一瞬だったんだけど」

「雫、空手とかやってたから知ってるんじゃない?」

「……ん」


 ネット検索したら、彼が出ている試合動画のものがあって、それを三人で観ている。

 最後の決め技は、上段二段蹴りだった。

 それも、相手に防御する隙さえ与えぬ速さで。


 オリンピックで採用されている空手(組手)は、伝統空手と呼ばれていて、寸止めの試合形式。

 直接打撃を与えないというのが正式なルールだ。


 元オリンピックゴールドメダリストがやっている空手道場。

 津田道場と言えば、かなり有名な道場だ。

 その道場主の息子さん。


 雫も小学生の時に空手を習っていたが、津田道場に通う子たちは動きが俊敏で、圧巻の演舞(型)が有名だった。

 雫は別の道場に通っていたから直接話したことはないが、もしかしたら毎年会場で見かけていたのかもしれない。

 中学に入ってからは本格的に銃剣道に切り替えたため、最近の空手界の情報はあまり詳しくない。


「性格はどうだろうね」

「南棟に1人で乗り込んで来るくらいだから、行動力はありそうだけど」

「一応、うちらを先輩として礼儀を弁えてたし、チャラ男ではなさそうだけど」

「雫の彼氏候補としてどうこうじゃなくても、あのレベルだと合格点だよね」

「……そだね。今日のアレが、罰ゲームだとか賭け対象とかじゃなければ、ありだと思う」


 他人事だと思って……。

 ちーちゃんとさっちゃんは言いたい放題。


 罰ゲーム。

 そうだよね。

 そういうことじゃない限り、私みたいなデカい女なんて、声をかけることもないだろうから。


 昨日のあの出来事を友達に話し、揶揄い目的で見に来たとしか思えない。

 だとしたら、今日見た彼は、俳優顔負けの演技力だ。


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