ちーちゃんを見て、妄想の世界で幸せに浸りたいのは理解できる。

 かくいう私も、妄想の世界の住人だからだ。


 幼い頃から、成長曲線から逸脱するほど体が大きい雫は健康そのもので。

 親に言われるがままに水泳、剣道、柔道、空手、体操教室などに通っていた。


 特に小学校一年から始めた銃剣道では、小学一、二年の部から中学二、三年の部に至るまで、一度も負けたことがない完全無敗の猛者だ。

 初めこそ親の言うがままだったが、天性の運動神経の良さで、何物にも代えがたい楽しさと達成感を味わったのは言うまでもない。


 けれどその過去が、今の雫を苦しめている。


 チラチラと向けられる視線に、『今日もデカ女がいるぞ』と言われているみたいで胸がぎすぎすする。


『可愛いより美人の方がいい』だなんて雑誌に書いてあったが、結局はふわふわ系で可愛らしいキラキラ女子が好まれるのが世の常だ。

 テレビドラマでも映画でも、“天然”だとか“ゆるふわ可愛い”だとか、もてはやされるワードは、体育会系長身女子にはでしかない。

 遊びならまだしも、恋人にしたいのも、結婚したいのも安らげる可愛らしいか弱き女性だ。


 ぽっちゃりしてるならダイエットすればいい。

 目が細いならメイクで誤魔化せる。

 けれど、デカい身体はどうにもできない。

 どうやったら、小っちゃくて弱々しい女の子になれるのだろう。


 高校生になったら、彼氏なんてすぐできると思っていた。

 都内でも有数の名門私立高校の制服を身に纏い、JKというブランド力のようなものがあれば、誰だってリア充になれるものだと。


 だけど、現実は違った。

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