第5話
親が沢山いるわちゃわちゃとした所の中にその子はいた。
「……………はるちゃん?」
な、なんではるちゃんが??
ん?はるちゃんが持ってた台紙を持ち上げたぞ?あ、なんか書いてある。なになに……
『やるからには全力を尽くしなさい?
これは命令よ』
「……さー!イエッサー!」
「ちょ?!何やってるの堺くん!もうそろそろ来るよ!」
「任せて!!!」
わざわざはるちゃんがきてくれたのだ。
めちゃくちゃ嬉しい。何気なく図書館で言ったあのことを覚えてくれただけでなく、来てくれたなんて……
心臓がドックン、ドックンと鳴っている。
暑いな。気温が高いのか?
それとも。今日は曇りだからか?
「…!来るよ!」
「はい!!!」
俺は3番目になってる女の子からバトンを託された。
——瞬間、大地を、地球を思いっきり蹴る。
走る、走る、走る、ただ走り続ける。
ただ、勝ちたい、勝ちたい!
2番目のアンカーの男の子を抜かす。
どうした?なんでそんなに驚いてる?
そのまま抜かした俺はグングンと1番で走り続けている男の子との距離を縮めていった。
——ズキッ
ああ、足、くじきかけた。
息も切れそうだ。
暑い、暑い、でも悪くない。悪くない。
あとちょっと、あとちょっと!!
俺とその男の子がゴールテープを切ったのはほぼ同時だった。
『ゴーーーーール!!!』
ザワザワ…ザワザワと声が聞こえてくる、
俺が一番だよな、頼む、頼む、
ゴクリ、と誰かが唾を飲む音がした。
誰だ?誰だ……
—— 1着は佐藤くんです!!
ワアアアアアアアアアア!!!!
………ああ、2着か。
結局彼女にも申し訳ないことをしたな。わざわざ来てもらったのに無様な姿をみさせて、
頭とフラフラしている。心臓もドックン、ドックン、とテンポが早くなっていってる。
この暑さで頭がやられたか、だが、この暑さは、走る前よりは、気持ちのいい暑さではないな。
そして、彼女に対する申し訳なさとやるせなさが胸いっぱいに広がった。
すると突然、視界がぼやけてきた。
あれ?雨降ってきた?
——クラッ
バタン
「?!?!直ぐに保健室へ!!」
◇◆◇
……………知ってる天井だ。
微かに薬品の匂いとここの場所特有の匂いがする。
保健室かな?多分。授業がめんどくてサボったときにここに寝っ転がってたな。
保健室の先生もよく許したな。
俺が男だからだろうな
「?!起きたの!」
「んひぃ?!」
な、なんだ?って、はるちゃん?
「体育祭で倒れるなんて聞いたことないわよ…?!そんなに体調が悪かったのなら先に先生に言いなさいよ!!」
「いやいや、体調は大丈夫だよ!安心して!ていうか俺のこと看病してくれたの?」
「まだ体育祭もあるし、保健室の先生に私が面倒見るって言っておいたわ。なんか言ってたけど追い出したわ」
「エエ……」
「それよりも!なんで泣いてたのよ?!」
「泣いてた?誰が?」
「貴方に決まってるじゃない」
「い、いやあ、2着になっちゃったし、負けたから」
「あとは?」
「あと?」
本人の前で言ったら恥ずかしいな。でもいいか。今更な気がする。はるちゃんも気づいてそうだし。
「わざわざクソ暑い中、台紙にラブコール書いてくれて応援してくれたのに無様な姿を見せちゃったことかな(ニチャァ)」
「ラブコールじゃないわ、脅迫状よ。
でも………
ごめんなさい」
「?!なんではるちゃんが謝るんだよ?!」
「貴方が私のために1着取ろうとしてたのは今ので確信したから!
でも、1着なんて、そんなものはどうでもいいの!!
貴方が!貴方に何かあったら、あったら……」
「あったら?」
「…………………私の本友達がいなくなるじゃない」
こ、こいつ!急にスンっってなりやがった?!
賢者モードか?
「あと、言い忘れたことがあったわ」
「なに?」
フワっと、彼女がにっこりと微笑んだかと思うと、さあああっと窓から風が入り彼女の髪を揺らした。
「………私のためにそこまで頑張ってくれるなんて思わなかった。嬉しかったわ。
あと、一生懸命に頑張る姿。ちょっと、一ミクロンぐらい見直したわ。
カッコよかったわよ」
窓から見える夕焼けを背後に、
幸せそうな顔をしている彼女に
ドックン、ドックン、ドックン、
美しい
俺のジーニアスな脳でもこの言葉しか出せなかった。
しばらくそのまま放心していた。
——
面白いな!もっと読みたいな!という方は☆と高評価お願いします
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