6話.テンション

「おいおい、またかよ」

「仕方ないだろ?元はと言えばお前が口封じしなかったのが原因だからな?」


 いまや危険度Cランクダンジョンとなった深森のボス、ケアを倒してからまだ数週間だというのに次の命令というかお願いをされていた。


「それこそ仕方ないやん。いろいろな可能性を考えろって言ったのデイノやん」

「む、それは……まあそうだが」


 そうだぞ。デイノがいろいろ考えろってアドバイスしてきたからそうしたんだよ。


 しかも、お前俺が帰ってきたら「よくやった」とか偉そうに言ってきたくせになんだよ。

 手のひらクルクルすんな。


「どうせ、侵攻してくる外来種どもを蹴散らせとかやろ?」

「ああ、このダンジョンは俺とポイジェが守る」


 最近、忍野勇斗の配信に良からぬ輩が映ったと話題になっていたからわざわざ確認した。

 するとなんだ?海外の自我持ちがいる?

 知らねえんだよ、そもそもこのダンジョン以外の自我持ちの知識なんてほぼ無知なんだよ。


 ネットで話題になってたから理解はするけど、だとしても理由なんて分からなかった。

 しかも、なぜかあのリナってやつが気に入らない。

 前に見たときは「変わったやつだなあ」としか思ってなかったのに、なんか引っかかる。


 まあ、そんなことどうでもいいや。

 とくに何かされたわけでも……ないよな?ネットで俺のアンチコメントしまくってるとかないよな?

 いや、それこそどうでもええわ。


「2人?じゃあ俺は何もせんでええん?」

「ああ、何もしなくてもいい」


 まじ?いよっしゃあああ。

 てっきり一人で全部ぶちのめせとでも言われるかと思った。


「嘘〜、ホントはちゃんと戦ってもらいまーす!」

「……は?捻り潰すぞてめえコラ。ていうかお前そんなキャラやったっけ、なんか変やで」


 性格変わりすぎだろ。


「…………」

「急に真顔で無言になるなよ」


 真顔でただ、こっちを見つめてくるデイノ。

 恐竜面だからちょっとシュールなの嫌なんやけど。


「……そう?普通だろ」

「うん、事実だから認めようね」


「…………」

「だからやめーやその顔」


 こっち見んなよ。


「なんでこっち見るん?」

「…………」


 スーっと視線を地面に向けるデイノ。


「もー、どこ見てんねん。しかもそれ、完全に目据わってるから怖い」


 本当になにこいつ、めちゃくちゃおかしいんだけど。

 頭に隕石でもぶつかったんじゃないか?


「まあいい、とにかく戦ってもらう」

「え?さっきの嘘はなんなん?」


「ちょっとそういう気分になったんでな」

「どういう気分やねん」


 気分でそんなキャラ変わる?

 ていうか、ちょっと期待させんなよ。


「どうせ戦えって言われると思ってたからええけどさ」

「ちなみに、戦ってもらうのはここじゃない、別のダンジョンだ」


 ここじゃないの!?

 めっちゃ嫌になってきた、一番嫌なのは地上で戦えパターン。


「どこ?」

「場所は分からん。攻めてきたダンジョンの援護って感じだ」


 じゃあ地上で戦えパターンはないな。

 一番いいのはダンジョン”呪妖”に呼ばれるパターンかな。


 あそこはカースのダンジョンだし。


 ていうか……


「そもそも外来種が来なかったら俺戦わんくてもええやん」

「まあ、そうなるが……おそらく数体は来る。そいつ等のアジトに乗り込んで壊滅してくれてもいいんだぞ?」


 あー、なるほど。

 そんなめんどいことやるわけないだろ。


「で?もちろん俺はクラッキー連れていくよ?」


 一人だけでの作戦ならまだしも、知らん奴との協力作戦だろ?じゃあこっちの知り合いを1人連れていきたい。


「まあ……いいが、過剰戦力じゃないか?」

「いいだろ別に、俺が戦うの拒否するよりはマシやろ?」


 もちろんクラッキーがいなかったらいかないよー。


「てか、マジでこのダンジョン2人で守るの?大丈夫?」

「やばかったらお前を呼ぶから、できるだけ速攻でフルボッコにして来い」


 もし相手に不死身がいたら、とか考えないのね。


「不死身だったら報告するけど、そもそも数わからないんでしょ?」

「分かってないが、複数体はいる」


 じゃあ、数十体で攻めてくる場合もあるってことじゃん。


「えー、マジで2人なの?ポイジェは不死身だからどうにでもなりそうだけどデイノは死んだら終わりやろ」

「死んでも死なないから安心しろ」


 出たよ、めちゃくちゃ理論。


「これが盛大なフラグになっていることは、デイノ自身知らなかった……」

「自分でナレーション付けんなよ。で、なに?やっぱり頭に隕石でもぶつかった?」


 明らかにおかしい。

 こんなにテンション高いデイノ見たことないんだけど。


「それ致命傷だろ」

「じゃあなんでおかしいんだよ」


「おかしいって……失敬だな」


 おかしいから言ってんだよ。


「いや、ちょっといい夢を見てな」

「ほう、どんな夢や?」


 テンションが高くなる夢……いったいどんな夢だ?


「俺が配信で”世界一かっこいいストレンジ”として紹介される夢だ」

「しょうもな」


 たったそれだけかよ、聞いて損した。

 むしろそれだけでここまでテンション上がるってもしかしてこいつチョロい?


「しょうもなって、お前配信をなめてないか!?あのな、配信で紹介されるだけでもすごいんだぞ!!しかもほぼ無名の俺が、こんな名誉ある称号とともに紹介されてるんだぞ!!テンション上がらないわけないだろ!!!」


「でもお前、それ夢じゃん」

「……悲しいこと言うなよ」


 え?急にしょんぼりするじゃん。


「もっと表立てばいいじゃん、そしたら紹介されると思うけど」

「駄目に決まってるだろォ!!そんなのはズルだ、知名度が低いまま紹介されるほうが何十倍も名誉なんだよ!!!」


「あーなるほど、分からんことはない」


 なんかめんどくさくなってきたな。

 

「いいこと思いついたわ」

「ん?なんだ?」


「ほら、このダンジョンに侵入してくるストレンジをブチのめしたら”こいつはやべえ”っていう噂がストレンジ間に広まるじゃん?そしたらその噂が徐々に人間にも広まって、お前のかっこよさの評価はぐんぐん上がるってやつ」


「なぜかっこよさに直結するのかは謎だが……そうだな、それもありか」

「ああ、だから最初から手抜いて負けるなんてのは最悪や。最初から全力で葬りにいけ?」


「だな、かっこいいのは置いといて弱い噂は汚名だからな」


 



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