7話.side外来種

 まるでダンジョン”深森”のような環境の中、強大な気配が幾重に重なる。

 

 ミンミンという鳴き声、カナカナという鳴き声。

 リンリンという鳴き声。

 普通は同時に聞こえることのない音が響く中、その集団は話す。


「おい、俺はどこを攻めりゃいいんだよ!?ファンガの野郎も殺られたし、そう簡単にはいかないぞ?」

「ああ、分かっている」


 これは、海外より日本に侵入したストレンジの集団。

 なぜこのような集団が日本に侵入できたのか……。


 それは日本にいる自我持ちので外来種を自らの手で招いた者がいるからだ。


 ダンジョン内では、思念を送ることができる。それは海外であっても同じ。


 地球上のダンジョンにいる以上、思念を送ることは可能となる。今までしてこなかったのはただただメリットがなかったから。


 日本と海外ではダンジョン関係ではほとんど関係がない。思念を送っても何も良いことはないのだ。

 しかも、こちらの情報がうっかり漏洩する可能性もある。国内ならまだしも、国外ダンジョンへの重要事項の漏洩は可能な限り避けたいと考えての暗黙の了解だった。


 しかし今回、アンノたちが大きく動いたことで計画していた作戦を実行に移したストレンジがいる。

 

 それがこの集団を纏めているストレンジがその首謀者である。


「まずは不死身を攻めようと思う。俺自身、他のダンジョンの連中とは会ったことがない」

「そりゃまずいんじゃ……」


 首謀者はもちろんこのダンジョンのボスである。


 だが、計画を企てていることがバレるわけにはいかないので他のダンジョンと一度思念で挨拶をしてから一度も話していない。


 このダンジョンの危険度はA。

 人間側はこのボスを発見していないのにこの危険度。


 それもその筈、このダンジョンは出てくるストレンジが他とは大きく異なるのだ。


「いや、どんな能力かはだいたい分かる。その上での計画だ」


 なんせ、何十年もかけて企てた計画。

 失敗は許されない。


「まず、序列2位のお前と序列4位のお前は奈落を落とせ」

「ふ、2人!?いくらなんでも危険度Sランクを2人はキツイだろ」


 序列とは、簡単に言えばこの作戦に参加するストレンジの強さランキング。もちろん能力上の相性の問題もある。

 が、おおよその正面からの強さではこの序列となる。


 この序列は直接戦って決めた物なので異論を唱えるものはいない。彼らに不満があるとすれば、それは首謀者が序列に数えられていないことだろう。


 忍野勇斗に敗れたファンガだが、その戦闘力は一級品だった。

 Sランク探索者が3人で倒せるレベルの化け物だ。


 もちろん、最上位の探索者なら2人でも倒せるし、死力を尽くせば1人での討伐も可能かもしれない。

 だが、それでも自我持ちに相応しい戦闘力を持っていた。


 そんなファンガでさえ、序列は6位であることこそが脅威であろう。


 フフフっとストレンジが反発してくるのを予想していたかのように笑う首謀者。


「安心しろ、お前らが思っているほど絶望的な敵じゃない」

「ほんとかー?……まあ、それがお前の計画ならやってやるよ」


 この自我持ちたちは、全員ダンジョンボスではない。

 皆、派遣された自我持ちに過ぎない。


 それでも、首謀者含め8体の自我持ちという圧倒的な戦力は日本のダンジョンを脅かすのに十分な戦力だ。


「で、そこの3体は正義を叩け。あそこの自我持ちは能力が不明だが、だからこそ3体で即撃破、そして他の加勢を頼みたい」

「能力が不明な敵が相手か……不足はないな!!」


「相手もこっちの能力は知らないから、どちらが有利とかはないな」

「…………」

「おい、何か言えよ。おい!」


 無口なストレンジに腕を振り上げる脳筋ストレンジ。

「……なんの真似だ?」

 だが、その腕は首謀者によって止められてしまう。


「やめとけ、お前じゃ勝てないことは分かってるだろ。ここで無駄な削り合いはよせ」

「チッ」

「…………」


「そしてお前はこのダンジョンにいろ」

「え?つまり何かあったら助けに入れと?」

「そういうことだ」


 やけに物分かりがいいストレンジもいる。


「そして、最後。さっき言ったこととに矛盾するがお前は一人で深淵をボコせ、あそこは不死身の集まりだ」

「なるほど……俺だけでいいのか?」


「ああ、いくらお前でも一人はキツイだろうな。正義を速攻で攻略して行くわ」


 この侵攻では、が重要となってくる。


「その上で注意だが、黒い自我持ちには細心の注意を払え?あとファンガを殺った人間も要注意だ」

「そんな化け物なのか……?」


 首謀者自身目の前で見たことはないが、確信があった。


 あいつらは、間違いなくこの世界の頂点に君臨する化け物。対策もなく一人で突っ込んでいったら即死するほどの別次元。


 ケアは自我持ちの中では最弱レベルなのでカウントにはいれないが、それでも忍野勇斗を退けた実績がある黒天王ネグロキングこと、アンノ。


 アンノに敗れたものの、破獄の自我持ちストレンジを全て単独撃破した人間、忍野勇斗。


「ああ、そこらにいる雑魚と勘違いして飛びかかれば火傷じゃ済まない」

「そんなにやべえやつなのか……」


 首謀者の真面目な言葉に驚くストレンジ、ニヤリと笑うストレンジ。

 各々が興味を示す。


「そいつがいるのは深淵だ。頼んだぞ?」

「……あまり乗り気にはならないんだが」

「まあまあ、俺が後から援護に行ってやるからそれまで耐えろよ」


 心残りと言えば、こちらに不死身のストレンジがいないこと。

 勿論首謀者も不死身じゃない。

 だが、こんな8体もの自我もちの協力を得られる機会を無駄にはしない。


 何としてもこの国を支配する。

 それこそが首謀者の野望なのだ。


「……!?」


 1体のストレンジが攻撃モーションに入ったのを確認。

 すぐに他のストレンジが飛び退く。


「っぶねえ!!いきなり放つな!!」

「あと少し遅かったら穴だらけだった」


 今攻撃したストレンジの名は、ハリアラシ。

 ファンガと同じく危険度Sランクダンジョン”獣園”の自我持ちである。


 そして、序列4位に君臨する強者である。


「だって、あれ」


 ハリアラシは草むらを指差す。

「……これは!?」


 そこにあったのは、針で貫かれたカメラ。

 

 すでに破壊されているが、手遅れだろう。


「よし、お前ら。計画を早めに実行するぞ」


 おそらくこのカメラに映った情報はすぐに広まる。

 厄介な探索者が来る前にさっさと計画を実行しよう。

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